日本大百科全書(ニッポニカ) 「高御産巣日神」の意味・わかりやすい解説
高御産巣日神
たかみむすびのかみ
神名の中心は生成の意の「ムス」、神霊の意の「ヒ」で、「顕宗(けんそう)紀」3年の月神の託宣に「我が祖」とあり、天地を鋳造した功ありとある。しかし、記紀神話にはこの神の創造の働きはなく、神祇(じんぎ)官の八神殿や新嘗(にいなめ)祭の斎場に、この神が食物神とともに祀(まつ)られている点からみれば、農耕にかかわる生成神がその原質であった。また、国譲りの使者や降臨神を派遣する主宰神であり、『日本書紀』の国譲り条で皇祖とよぶ点からみて、皇祖神と考えられていた時期が推定される。この神の基盤には多くのムスヒの神があり、そのなかでこの神が天神(あまつかみ)系の主宰神、神産巣日神(かみむすびのかみ)が国神(くにつかみ)系の主宰神として分化成立した時期がある。そのような信仰の歴史を踏まえ、この二神が天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)とともに『古事記』冒頭に据えられたのであろう。しかしこの神は、しだいに皇祖神ならびに主宰神としての地位を、日神を基盤として新しく創出された天照大神(あまてらすおおみかみ)に譲っていく。なお記紀の記述の相違は、この姿を明らかに語っている。
[吉井 巖]