改訂新版 世界大百科事典 「魚山蠆芥集」の意味・わかりやすい解説
魚山蠆芥集 (ぎょさんたいがいしゅう)
真言声明(しようみよう)の曲集。略称《魚山集》。内題《魚山私鈔》。〈魚山〉は声明,〈蠆〉はとげ,またはこまごましたこと,〈芥〉はあくたを意味し,全体で多数の声明を載せた曲集の意に解されている。真言声明の基本的な曲集であるが,同時に収載の全曲には声明固有の楽譜(譜博士)とともに唱法上の諸注意や口伝などが記されていて,声明学習者のための教則本的性格を備えている。上・中・下の3巻を一帖として上巻には四箇(しか)法要曲を,中巻には曼荼(陀)羅供曲を,下巻には諸讃類を収めている。1318年(文保2)にはすでに存在していたといわれるが,その後の写本としては1496年(明応5),1514年(永正11)の長恵(1457-1524)によるもの,および1535年(天文4),1569年(永禄12)の朝意(1517-99)によるものなどが知られている。1646年(正保3)には永正11年の長恵本を底本として初めての版本が現れた。その後,高野山を本拠とする南山進流に属する声明家たちによって1649年(慶安2),1727年(享保12),1743年(寛保3)と版が改められ,1834年(天保5)には標題を《声明正律》とし,さらに1892年と刊行が続いた。また新義真言宗でも1682年(天和2),83年,85年(貞享2),1711年(正徳1)に刊行されている。いずれも曲集本体に〈音律開合名目〉〈暗調子事〉を加えたものが多い。1894年には,葦原寂照(1833-1913)の《魚山蠆芥集要覧》のような解説書が,1930年には宮野宥智の《南山進流声明類聚》のような,《魚山蠆芥集》に講式などを加えた大規模な曲集が現れた。
執筆者:岩田 宗一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報