口伝(読み)クデン

デジタル大辞泉 「口伝」の意味・読み・例文・類語

く‐でん【口伝】

言葉で伝えること。くちづたえ。
師が、学問技芸奥義などを弟子に口で伝えて教え授けること。また、その教え。口授くじゅ口訣くけつ
奥義を伝えた文書書物秘伝書
[類語]授ける伝授師伝奥伝奥許し口授

くち‐づて【口伝】

口伝え2」に同じ。「口伝に彼の逝去を知る」

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精選版 日本国語大辞典 「口伝」の意味・読み・例文・類語

く‐でん【口伝】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( ━する ) 言葉で伝えること。口づたえに伝授すること。特に、師が弟子に奥義などの秘密を口づたえに授けること。秘伝を直接伝授すること。口訣(くけつ)。口授。くちづたえ。
    1. [初出の実例]「善に貪る至に勝へず、拙く浄き紙を黷(けが)し、口伝を謬り注す」(出典:日本霊異記(810‐824)中)
    2. 「口伝(クデン)も師伝も受けずして、只見及び聞及びたるに任せて」(出典:仮名草子・浮世物語(1665頃)二)
  3. 奥義を伝えた書物。秘伝の書。
    1. [初出の実例]「為輔中納言口伝にかかれて侍なるは」(出典:古今著聞集(1254)三)

口伝の語誌

本来仏教の世界で用いられたことばで、仏典を筆録することは神聖を害するものとして行なわず、教えの聖性保持のために、口づたえで伝授したことをいう。「口授」「口訣」「面授」などともいい、日本でも天台宗の本覚思想などが種々の「口伝法門」によって伝承された。後には、能楽、茶の湯などの奥義の伝授や家元制などにも取り入れられる。


くち‐づたえ‥づたへ【口伝】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 口頭で伝達、また伝授すること。口伝(くでん)
    1. [初出の実例]「わずかに家人に口づたえに記録せしめたという」(出典:短歌への訣別(1946)〈臼井吉見〉)
  3. 人から人へ言い伝えること。くちづて。
    1. [初出の実例]「人の口伝にいひ伝へいひ伝へしたることにてあれば」(出典:愚管抄(1220)三)

くち‐づて【口伝】

  1. 〘 名詞 〙 口頭で用件などを伝えること。また、うわさなどを人から聞くこと。
    1. [初出の実例]「不信心者の百代が 口伝(クチヅテ)にする合言葉」(出典:牧羊神(1920)〈上田敏訳〉日曜日)

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改訂新版 世界大百科事典 「口伝」の意味・わかりやすい解説

口伝 (くでん)

言葉で用件を伝えるという意。とくに中世の伝授の場で師が弟子に奥義秘事を書抄によらずに直接に口授することをいう。公家社会では朝儀に関する家説の秘事を子孫に伝承するのに口伝形式が用いられ,僧侶社会でも法会儀式次第の細部や教義解釈の一部を門弟に伝授するときに口伝によった。密教では口伝は本経,儀軌よりも上位にあるとされて,その間に相違のある場合は口伝によるべしとされた。口伝は猿楽,楽,立花,茶の湯などの芸能の秘授にも活用された。筆録で伝えがたい事柄を口伝によったばかりでなく,筆録が可能な場合にも口伝によることがある。既成の解釈,先例や技法が何かの理由で修正されなければならぬときに修正部分を口伝化して全体の調和を保つためであり,また恣意的な書写によって伝授関係の権威が侵されるのを防ぐためである。この最も素朴で直接的な方法はすべての稽古事の原点として注目すべき諸問題を含んでいる。
秘伝
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「口伝」の意味・わかりやすい解説

口伝
くでん

文字によらないで口伝えに教法や作法を師から弟子へ伝えることをいう。口訣(くけつ)、口授(くじゅ)、面授などともいう。授受する当事者同士以外に知られたくない秘法を伝える場合に用いられるのが通例で、古くは古代インドのベーダ文献であるアーラニヤカ(森林書)やウパニシャッド(奥義書(おうぎしょ))などもひそかに師から弟子へ口授された。仏教ではとくに祈祷(きとう)の秘法秘術を扱う密教において重要視されてきた。わが国では真言密教(東密(とうみつ))でとくに重んじられて、略して「ロイ相承(そうじょう)」あるいは単に「ロイ」などと称し、なかでも仁海(にんかい)に始まる小野流は口伝為本(くでんいほん)の流儀を形成した。天台密教(台密(たいみつ))も東密同様に口伝を重んじたが、天台宗学自身も平安末期以後に重要視するようになり、種々の口伝法門(ほうもん)を生じた。天台本覚法門(ほんがくほうもん)はその所産である。鎌倉新仏教の各宗も大なり小なりその影響がある。また仏教に限らず、華道、茶道、和歌、香道、武芸などでもその派独自の秘技秘法があり、口伝が重んじられた。

[藤井教公]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「口伝」の解説

口伝
くでん

口授(くじゅ)・口訣(くけつ)・面授とも。宗教・学問・芸能において秘法や作法などを直接に口で伝授すること。またその記録。仏教では法会の儀式次第や教義の解釈を弟子に伝授する際に行われ,とくに密教では本経・儀軌(ぎき)よりも重視された。公家社会では朝儀典礼に関する家説などを子孫に伝授する際に行われ,家説の口伝を有する人を家伝人といい,その人の言動が多少変則であっても由緒ある説として是認された。中世以後は神道・学問・和歌・茶の湯・華道・香道・武芸・音曲などの分野でも,口伝による伝授が行われるようになった。筆録で伝えにくいことだけでなく,さまざまな事柄の伝授に口伝が利用されたのは,恣意的な解釈を防ぎ,権威を維持するためであった。

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百科事典マイペディア 「口伝」の意味・わかりやすい解説

口伝【くでん】

文書によらず,直接に口で伝承する教え。《古語拾遺》は〈上古の世に未だ文字あらざる時,貴賤老少口々に相伝へ〉たという。後に,仏教や歌道・芸道の秘事を口づたえに伝授すること,またその書物。口訣(くけつ)に同じ。→古今伝授
→関連項目太子伝

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口伝」の意味・わかりやすい解説

口伝
くでん

口授,口訣,面授ともいう。宗教,学問,芸能などの秘事や作法などを口頭で伝授すること。仏教では東密の小野流が,早くから口伝を基とし,台密でも口伝を重んじた。中世以後,権威主義が尊ばれるようになると,学問,武芸,和歌,茶道,華道,音曲などにまで口伝が行われた。

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世界大百科事典(旧版)内の口伝の言及

【ベーダ】より

…現在のところ,おおまかな推定として,最古層にあたる《リグ・ベーダ・サンヒター》の成立が前1200年を中心とする数百年間,最新層に属する〈古ウパニシャッド〉の成立が前500年を中心とする数百年間と考えられている。ベーダは成立当初以来もっぱら口伝によって継承され,文字によって書き記されるようになったのは相当後世になってからのことであるが,その口伝の正確さは驚嘆に値する。ベーダの言語はいわゆるサンスクリット(梵語)に属するが,狭義のサンスクリットすなわち古典サンスクリットClassical Sanskritと比較してさらに古い語形を呈しているので,〈ベーダ語〉と呼ぶことが多い。…

※「口伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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