講会の儀式次第,とくに文学的表現で講会の法則を示したもの。講会は講式にしたがって行われる。数段に分けられた創作的な講式文や,ときには歌讃(声明(しようみよう))なども加えられて,仏菩薩や高僧などの徳を讃嘆したり,特定の信仰や行業を勧化する。たとえば永観の《往生講式》は発菩提心,懺悔業障,随喜善根,念仏往生,讃嘆極楽,因円果満,回向功徳の七門にわかって,往生極楽の宗教心を高揚し,念仏行を策励する。この講式を法則として営まれたのが往生講である。また法然の滅後,遺弟らによって知恩講が行われたが,この講の次第を記したものが《知恩講私記》であり,それには法然の諸宗通達,本願興行,専修正行,決定往生,滅後利物の五つの徳が五段に分けて讃嘆されている。この五段の講式文は一種の法然伝となっていて,その生涯をしのぶとともに専修念仏を勧めた講式であった。講式は平安時代にあらわれ,最澄に《薬師如来講式》があったと伝えられる。源信に《十楽講作法》《六道講式》(二十五三昧作法),真源に《順次往生講式》,覚鑁(かくばん)に《愛染王講式》,貞慶に《五段舎利講式》,明恵に《舎利講式》《遺跡講式》《涅槃講式》《十六羅漢講式》(以上四座講式),覚如に《報恩講式》などがある。
講式は読みくだし漢文の形で綴った叙事的な詞章に,語り物ふうの曲節が付されており,和讃とともに声明の代表的なものとされている。いずれも三段,五段,六段など数段からなる長文で,第一段には初頭に置かれた表白段(ひようびやくだん)を含んでいる。講式は,初重(しよじゆう),二重,三重などの音域によって分けられた曲節類型を組み合わせて作曲されていて,平曲(へいきよく)などの語り物の母胎となったといわれる。法要の中で講式を唱える役を式師と称する。
執筆者:伊藤 唯真+横道 万里雄
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仏教法会(ほうえ)の儀式次第のうち、とくに仏・菩薩(ぼさつ)、祖師などの徳を講讃(こうさん)する儀式をいう。源信(げんしん)の「二十五三昧(さんまい)式」(986)はその嚆矢(こうし)で、その後盛んに流行した。講式の名称は、源信の「六道(ろくどう)講式」を最初とする。しかしその後、歌詠賛嘆の儀を付す講式が主流となり、このような講式は永観(ようかん)の「往生(おうじょう)講式」がその初めとされる。さらに真源(しんげん)の「順次往生講式」では、管弦(かんげん)、催馬楽(さいばら)を結合したものとなった。以上の平安時代の講式がいずれも阿弥陀(あみだ)信仰を中心としたのに対し、鎌倉時代には貞慶(じょうけい)、明恵(みょうえ)らによる釈迦(しゃか)、弥勒(みろく)、神祇(じんぎ)信仰を鼓吹(こすい)するものが現れた。貞慶には「弥勒講式」「舎利(しゃり)講式」などがあり、明恵には「四座(しざ)講式」「光明真言(こうみょうしんごん)講式」「大明神(だいみょうじん)講式」などがある。室町時代には、本願寺覚如(かくにょ)の「報恩(ほうおん)講式」、存覚(そんがく)の「謝徳(しゃとく)講式」「両師講式」などが祖師を顕彰するものとして注目される。現在、それらの講式のうちすでに廃絶したものも多いが、真宗の報恩講、禅宗の五講、また涅槃(ねはん)講などにおいて若干の講式が行われている。
[北西 弘]
『金田一春彦著『四座講式の研究』(1964・三省堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…後者の二重は,初重,三重との音程関係が確定している場合と,していない場合とがある。その二重がさらに発展した例は,講式に見ることができる。すなわち,初重と三重との中間の音域で作曲されて楽式上のひとまとまりとなっている部分であるが,講式の二重は,音域のほかにもはなやかな旋律であるのが特徴で,淡々と続いてきた初重のあとに配されて,はっきりした音楽上の転換をもたらすのに効果を生んでいる。…
…しかし,田楽,猿楽が真に流行しその芸質を高めるのは次の第4期においてである。一方,雅楽と同じころ輸入された仏教音楽の声明も,雅楽と同じようにこの期において日本化され,日本声明ともいうべき講式や和讃(わさん)が生まれた。
[第4期]
民族音楽興隆時代(13~16世紀) 鎌倉時代の実権を握った武士の間では,平家琵琶(平曲)という琵琶の伴奏で《平家物語》という長編の叙事詩を語る音楽が流行した。…
※「講式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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