改訂新版 世界大百科事典 「魚醬」の意味・わかりやすい解説
魚醬 (ぎょしょう)
魚介類を塩漬にして発酵,熟成させた食品,またその浸出液。魚介の肉とともに内臓を刻み入れ,塩のほかにこうじを加えて漬けることも多い。《和名抄》は陶弘景の《神農本草経》注を引いて,肉醬,魚醬などはすべて醢(かい)と呼ぶとしており,《本朝食鑑》(1697)は,魚醬は魚醢と同じで,日本では塩辛と通称すると書いている。しかし,《今昔物語集》巻二十八の第五話のように,〈鰺ノ塩辛,鯛ノ醬〉などと併記する例もあり,あるいは固型分の多少によって,醬と塩辛を区別していたのかもしれない。もともとは塩蔵した魚介類そのものを食べるのが目的で行われたが,やがてそこに浸出したうまみのある液汁をも利用するようになり,現在ではその液汁のみを目的とする製造も行われている。魚(うお)しょうゆと呼ばれるのがそれで,日本には秋田のしょっつる,香川のいかなごしょうゆなどがあり,外国のものではアンチョビーソースやニョクマムが知られる。しょっつるは塩汁の意で,ハタハタ,イワシなどを材料とし,いかなごしょうゆはコウナゴ,カマスゴなどとも呼ばれるイカナゴでつくり,いずれも鍋料理に用いられる。
→塩辛
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報