日本大百科全書(ニッポニカ) 「イカナゴ」の意味・わかりやすい解説
イカナゴ
いかなご / 玉筋魚
sand eel
sand lance
[学] Ammodytes personatus
硬骨魚綱スズキ目イカナゴ科に属する海水魚。名は「糸のように細長い小魚」という古語に由来する。カマスゴ、オオナゴ、コウナゴなどともいう。沖縄を除く日本各地、朝鮮半島や東シナ海などの内湾や浅海に広く分布する。体は細長く、円筒形で、頭はとがる。側線は背びれに沿って背側を走り尾柄(びへい)で終わる。鱗(うろこ)は微細で円鱗(えんりん)。腹面近くの体側に、後下方へ向かう多数の皮膚のひだがあるのが特徴である。背びれや臀(しり)びれは基底が長く、すべて軟条で支えられている。腹びれはない。大きさは北海道地方では全長25センチメートルになるが、その他の地方では15センチメートル内外。底層が砂質や砂礫(されき)質の水域にすむ。
産卵期は北海道では3~5月、その他では12月から翌年1月である。産卵盛期の水温は15℃前後であるが、九州ではこれよりも2℃高く、青森県や北海道では10℃以下である。産卵開始期は、同じ海域でも年によって1か月ぐらい変化があり、水温が早く低下する年は早い。産卵は水深20~30メートルの砂地でなされる。成熟卵は黄色く直径0.7ミリメートル前後で、産み出されるとただちに他物に粘着する。1尾の抱卵数は2000~数千粒で、受精後10日余りで孵化(ふか)する。卵黄がなくなるとおもにコペポーダを食べ、全長3.5センチメートルぐらいに成長するまで浮遊生活をする。このころは光に集まる習性があるので、それをねらって夜間の漁業が行われる。しかし、その後は昼間は浮遊生活、夜間は砂の中に潜る。5月ごろまでに餌(えさ)を十分にとって8センチメートルぐらいに成長し、脂肪を体内に蓄え、水温が19℃以上になると、砂の中に4センチメートルぐらい潜って夏眠する。夏眠は水温が18℃以下になる秋まで続き、この間はほとんど餌をとらない。その後は、昼は浮遊生活、夜は底生生活をする。生後1年で9センチメートルぐらいになり、成熟して産卵する。体長は普通2年で12センチメートル前後、3年で15センチメートルぐらいになる。一生プランクトンを主食し、なかでも浮遊性の小甲殻類を好むが、ほかに小魚、ヤムシ、オキアミ、ときには珪藻(けいそう)類なども食べる。産卵期間中は1年魚は多少とも餌をとるが、2~3年魚はほとんど食べない。
漁獲量は約10万トンで、北海道宗谷(そうや)地方、宮城県沖、瀬戸内海などに多い。魚群は内湾で渦流(かりゅう)や環流のある所や潮流の早い場所に集まり、水温13~17℃で漁獲率が高い。成魚は12月から翌年6月まで産卵場付近でパッチ網、船引網、底引網、敷網などによって漁獲され、幼魚は2~6月の間、こまし網で漁獲される。肉の脂肪分が多く、7センチメートル以上では20~30%もある。煮干し、佃煮(つくだに)、生食、てんぷらのほか、大型のものは燻製(くんせい)にする。瀬戸内海沿岸部では、幼魚を佃煮にした「くぎ煮」が有名。また養殖魚の飼料にもする。
本種は、体の側面に沿って尾びれ基底近くまで走る皮褶(ひしゅう)(皮膚のしわ)があるという特徴でキタイカナゴAmmodytes hexapterusによく似ているが、背びれ軟条が少なくて54~59本であること、側線の後端は背びれ基底後端より後方まで伸びることなどで区別できる。キタイカナゴは北海道のオホーツク海からカリフォルニア南部までの太平洋沿岸域、ピョートル大帝湾などに分布する。日本には、そのほかにタイワンイカナゴBleekeria mituskuriiとミナミイカナゴAmmodytoides kimuraiが分布する。
[落合 明・尼岡邦夫]