内科学 第10版 「Fallot四徴症」の解説
Fallot四徴症(チアノーゼ性心疾患)
疫学
全CHD患者の4~9%で,チアノーゼ性CHDで最も多い.未手術では10歳までの生存率は約30%と予後不良だが,手術成績は良好で95%以上の患者が成人する(Nakazawaら, 2004).術後遠隔期の病態は遺残する右室流出路狭窄,肺動脈弁閉鎖不全,右室機能などによって異なる.通常,修復術後の肺動脈弁機能は異常で,多くは狭窄や閉鎖不全を伴う場合が多い.狭窄の重症度は軽微(<25 mmHg),軽症(25~49 mmHg),中等症(50~79 mmHg),重度(≧80 mmHg)に分類される.特にtransannular patch法による修復術後は中等度以上の肺動脈弁閉鎖不全を認める場合が多く,右心房と右心室は拡大している場合が多い.これらは遠隔期の成人期には心不全や不整脈発症と密接に関連する.
臨床症状・検査成績 【⇨5-8-8)】.
治療
術後中等度以上の右室流出路狭窄(圧較差≧ 50 mmHg)は治療の対象となる.肺動脈弁狭窄はカテーテル治療を第一とするが,困難な場合は手術適応となる.重度の肺動脈弁閉鎖不全は長期予後不良と関連することから,著明な右心室拡大,有意な上室性/心室性不整脈,進行性の運動能低下などは肺動脈弁置換術の適用とされ,難治性心室性不整脈には植え込み除細動器(ICD)も考慮する.[大内秀雄]
■文献
Nakazawa M, Shinohara T, et al: Study Group for Arrhythmias Long-Term After Surgery for Congenital Heart Disease: ALTAS-CHD study. Arrhythmias late after repair of tetralogy of fallot: a Japanese Multicenter Study. Circ J, 68: 126-130, 2004.
Ohuchi H, Kagisaki K, et al: Impact of the evolution of the Fontan operation on early and late mortality: a single-center experience of 405 patients over 3 decades. Ann Thorac Surg, 92: 1457-1466, 2011.
Shiina Y, Toyoda T, et al: Prevalence of adult patients with congenital heart disease in Japan. Int J Cardiol, 146: 13-16, 2011.
Fallot四徴症(先天性心疾患)
右室流出路狭窄,心室中隔欠損,大動脈心室中隔騎乗,右室肥大を4つの特徴とする複合疾患である.チアノーゼ性心疾患の約5%を占め,大血管転位症とならび最も多い.22番染色体の部分欠失の合併がしばしばみられる.
発生機序
右側背側円錐隆起が前方に偏位することによって漏斗部狭窄が生じ同時に主幹部肺動脈が低形成となる.右室流出路の狭窄と(たいていは大きな)心室中隔欠損のため,右室圧は左室と等圧となり右左短絡も生じる.
重症度
肺動脈閉鎖を伴う場合には極型Fallotとよばれ,肺血流は動脈管もしくは体肺動脈側副血行を通じて供給されることになる.この場合には当然心室中隔欠損を介する短絡はすべて右左方向となる.右室流出路狭窄が軽度である場合には心室中隔欠損を介する短絡は左右が主体となりチアノーゼは目立たない(ピンクFallot).
徴候・診断
チアノーゼが安静時には目立たない軽症~中等症でも啼泣時,哺乳時に明らかとなることが多い.また入浴後に爪床部の紫色に気づかれることもある.これらは体血管抵抗の低下により肺血流が相対的に減少することで説明される.未修復の場合には持続する啼泣時などに右室流出路狭窄の突発的増強が出現し低酸素発作が起こり得る.このときには通常は肺動脈領域に聴取される収縮期心雑音が減弱する.検査所見としては,心電図上の右室肥大,胸部X線での肺血管陰影の減弱,肺動脈主幹部の陥凹,挙上した心尖部(木靴型心)を呈することが多い.心エコーでは肺血流の多寡に応じた肺動脈のサイズと左室容積が観察され,準備短絡手術の必要の有無が判断される.また右室流出路狭窄の程度に応じて修復術式も決定される.
管理・治療
チアノーゼがない場合でも右室圧は左室等圧であり,すべて修復対象となる.一期的に修復手術が可能な場合と,低形成である肺動脈,左室に対し肺血流を増加させて成長を促すために姑息的シャント手術を必要とする場合がある.低酸素発作の予防としてはβ遮断薬が有効である.
術後の問題
近年では遠隔期に出現する心室性不整脈の発生が問題となっている.肺動脈弁逆流により拡大した右室拡大,機能低下が一因と考えられている.[山田 修]
■文献
Gotzoulis MA, Balaji S, et al: Risk factors for arrhythmia and sudden cardiac death late after repair of tetralogy of Fallot. Lancet, 356: 975, 2000.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報