ヤクシマラン(英語表記)Apostasia wallichii R.Br.ex Wall var.nipponica Masam.

改訂新版 世界大百科事典 「ヤクシマラン」の意味・わかりやすい解説

ヤクシマラン
Apostasia wallichii R.Br.ex Wall var.nipponica Masam.

日本のランの中でその花の形が最も原始的とされる地生ラン。九州の南部にわずかに分布する。根茎は短い。茎は高さ10cm以内。葉は5枚前後で,狭卵形,長さ2~3cm。7月ころ,茎頂に数花をつける。花は黄色,径1cm弱。萼片花弁はほぼ同形で軽く反り返り,ほぼ放射相称で距はない。おしべめしべは離生していて,他のラン科植物のように合生して蕊柱(ずいちゆう)をつくることはなく,柱状のめしべの下部で分かれた2個の稔性のあるおしべと1個の仮雄蕊がめしべを取り囲む。屋久島種子島および宮崎県より知られ,常緑樹林林床に生育する。種としては東南アジアを中心に広く分布するが,日本産のものは小型で花数も少ないので区別される。

 ヤクシマラン属Apostasiaの花は蕊柱を形成せず,中軸胎座を有し,花粉塊もつくらないなど,ラン科の中では原始的と考えられる性質を多く持つ。約10種が東南アジアを中心に分布している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤクシマラン」の意味・わかりやすい解説

ヤクシマラン
やくしまらん / 屋久島蘭
[学] Apostasia nipponica Masamune
Apostasia wallichii R.Br. var. nipponica Masamune

ラン科(APG分類:ラン科)の多年草。根茎は横走する。茎は直立し、高さ約10センチメートル。葉は数枚互生し、披針(ひしん)形で長さ2~3センチメートル。7月ころ、茎頂に黄色で径約8ミリメートルの花を数個開く。3枚の萼片(がくへん)と3枚の花弁とが、ほぼ放射相称に並ぶ。各花被片(かひへん)はやや反り返る。距(きょ)はない。合着する雌しべ雄しべ先端で分かれ、雌しべの周りを2本の雄しべと1本の仮雄蕊(かゆうずい)が取り囲む。常緑樹林の林床に生え、九州南部に分布する。

 この属は花被片が放射相称であるなどの点でラン科のほかのものと異なり、ヤクシマラン科として独立させることがある。

井上 健 2019年5月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例