事代主命(読み)ことしろぬしのみこと

日本大百科全書(ニッポニカ) 「事代主命」の意味・わかりやすい解説

事代主命
ことしろぬしのみこと

日本神話の大国主命(おおくにぬしのみこと)(大己貴神(おおなむちのかみ))の子。『古事記』でこの神が父神にかわって高天原(たかまがはら)の天照大神(あまてらすおおみかみ)の使者に国譲りの意を伝えるのは、神が神人の口を借りて託宣するという神話的表現であり、この神の託宣神的性格を示している。元来言代(ことしろ)とは神託を管掌する神人の意で、これを神格化したもっとも巨大な像が、西南大和(やまと)の賀茂(かも)氏が信奉した事代主命であった(奈良県御所(ごせ)市の鴨都波八重(かもつはやえ)事代主神社が著名)。この神はその後、国神(くにつかみ)の総帥である大国主命の御子神(みこがみ)に包摂され、託宣神としてよりも皇室の守護軍神としての性格を深めてゆく。『古事記』の国譲りの条で、大国主命が「この神が天孫の前後に立って仕えるならば従わない国神はない」と述べるのがそれで、このような皇室の守護軍神的性格は、「神功紀(じんぐうき)」、「天武(てんむ)紀」、『出雲国 造神賀詞(いずものくにのみやつこのかんよごと)』にも示されている。初代天皇の神武(じんむ)、2代綏靖(すいぜい)、3代安寧(あんねい)の各天皇の皇后は、『日本書紀』によればこの神の子孫である。なおこの神は神祇官(じんぎかん)八神殿祭神の一柱でもある。

吉井 巖]

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