改訂新版 世界大百科事典 「アタプエルカ」の意味・わかりやすい解説
アタプエルカ
Atapuerca
スペイン北部,ブルゴスの東20km,アタプエルカ石灰岩丘陵に散在する洞窟群で構成される前期中期更新世人類遺跡。主な遺跡は,深い洞窟のシマ・デ・ロス・ウェソスSima de los Huesosと,天井が開いているグラン・ドリナGran Dolinaの2ヵ所である。シマ・デ・ロス・ウェソスは以前から洞窟グマの骨が出土することが有名で,〈骨の穴〉という意味。そこで,1976年に最初の人骨が発見された。1984年以来,アルスアガJ.L.Arsuagaたちによって組織的な発掘が行われ,少なくとも25個体,1300点を超える化石人骨が発掘された。とくに5号頭骨は保存が完全で著名。これらの人骨は,死んだ後で極めて奥深い穴に投げ込まれたと解釈されている。つまり一種の埋葬である。一部には食人の痕跡もある。年代は,ウラン系列法により,30万年前あるいはその前と推定されている。頭骨は,眼窩上隆起が発達し,額が強く傾斜するが,後頭部は丸い。頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい)は1100~1400mlである。顔はホモ・ネアンデルタレンシスと類似して,中央部が前方に突出している。四肢骨は頑丈で,骨盤が幅広く,恥骨が長い点でホモ・ネアンデルタレンシスと似ている。これらの人骨は,一般にはホモ・ハイデルベルゲンシスに属するといわれているが,ホモ・ネアンデルタレンシスの祖形であるという意見もある。石器も大量に出土していて,アシュール型ハンド・アックスも含まれる。
グラン・ドリナは,かつては大きな洞窟であったが,鉄道工事で丘陵に切り通しができたときに開放し,天井がなくなった。堆積層の厚さは18mもあり,カルボネルE.Carbonellたちによって発掘が慎重に進められている。ここのTD6層から1994年に出土した未成年の部分的人骨(ATD 6-5)は,年代が80万年ほどと推定され,ホモ・アンテセソールと名付けられた。オルドバイ型に匹敵する200個もの石器が発見されている。
→ホモ・アンテセソール →ホモ・ネアンデルタレンシス
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報