日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
アベラールとエロイーズ―愛と修道の手紙
あべらーるとえろいーずあいとしゅうどうのてがみ
Magistri Petri Abaelardi et Heloissae conjugis ejus epistolae
フランス中世の哲学者アベラールとその女弟子エロイーズの2人が取り交わした書簡集。12通知られる。アベラールはパリにあって名声を博した時期に、佳人エロイーズと相愛の仲となり(当時アベラール39歳、エロイーズ17歳)、結婚して1子をもうけた。だがエロイーズの叔父により2人は引き裂かれ、それぞれ修道生活に入った。本書簡集は、その後、アベラールが不幸の半生をつづった第1書簡を機に再開された、2人の精神的交流の記録である。エロイーズの愛の表白が際だつ第2~第5書簡は、「愛の書簡」とよばれ、数々の改竄(かいざん)を含む翻訳となって世に流布した。後半の「教導の書簡」(第6~第8書簡および断片書簡4通)は、学問と修道に関する彼女の問いかけとアベラールの教示を内容とし、修道生活を知る重要な文献となっている。
[清水哲郎]
『畠中尚志訳『アベラールとエロイーズ―愛と修道の手紙』(岩波文庫)』