アミロイド腎症

内科学 第10版 「アミロイド腎症」の解説

アミロイド腎症(全身疾患と腎障害)

定義・概念
 アミロイドーシスは線維構造を有する不溶性蛋白であるアミロイドにより,各臓器の機能障害を引き起こす疾患の総称である.全身の臓器にアミロイドが沈着する全身性と,特定の臓器に限局して沈着する限局性に分けられる【⇨表13-3-3】.全身性アミロイドーシスであるALアミロイドーシスとAAアミロイドーシスでは,腎臓は重要な罹患臓器である.家族性アミロイドポリニュロパチー(FAP)でも末梢神経,自律神経への沈着に加え,腎臓にアミロイド沈着がみられる.アミロイド沈着による腎障害をアミロイド腎症とよび,腎生検全体の1%,ネフローゼ症候群における腎生検の6%にみられる.
病因・病理
 ALアミロイドーシスでは,単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)軽鎖を前駆蛋白としてアミロイドが形成される.κ鎖よりλ鎖の頻度が高い.多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症に伴うことがあるが,これらを伴わない場合は原発性ALアミロイドーシスとよぶ.中年以降に発症し,60歳代がピークである.AAアミロイドーシスでは,急性期蛋白である血清アミロイドA(SAA)が前駆蛋白であり,アミロイドA(AA)となり臓器に沈着する.関節リウマチ,Crohn病,Castleman病,自己炎症性疾患などの慢性炎症性疾患に続発する.かつては結核に多く合併したが,現在では90%が関節リウマチに合併したものである.続発性あるいは反応性AAアミロイドーシスともよばれる.FAPでは遺伝的に変異したトランスサイレチンが前駆蛋白となる. 腎臓においてアミロイドは糸球体,血管壁,間質に沈着し,光顕ではHE染色で好酸性均質の無構造に染まる沈着物として観察される.糸球体ではメサンギウム,係蹄壁,血管極への沈着がみられ(図11-6-12A),PAM染色では糸球体基底膜から上皮側に針状に突出するスピクラ(spicula)が観察されることもある.アミロイドはコンゴレッド(Congo-red)染色で橙赤色に染まり(図11-6-12B),偏光顕微鏡下で緑色を呈することにより診断される.過マンガン酸処理によりAAアミロイドーシスでは橙赤色が消失し,ALアミロイドーシスでは処理に抵抗性で染色が残存するとされてきたが,判断に熟練を要し誤認も多いため,確定診断にはアミロイド蛋白に対する特異抗体(抗免疫グロブリン軽鎖抗体,抗AA抗体,抗トランスサイレチン抗体)を用いた免疫染色が推奨される.電顕では8~15 nmの幅の分枝のない細線維構造を示す(図11-6-12C).
臨床症状・検査成績・診断
 アミロイド腎症では蛋白尿が出現し,しばしばネフローゼ症候群を呈する.進行すると腎機能低下をきたす.原発性ALアミロイドーシスの場合は,蛋白尿やネフローゼ症候群を契機に発見されることも多い.高齢者のネフローゼ症候群では,頻度は低いもののALアミロイドーシスを念頭におく.胃腸障害(頑固な下痢など),低血圧,起立性低血圧,心電図低電位がみられるときは特に注意する.M蛋白を検出・同定するためには,血液や尿の免疫電気泳動や,より感度の高い免疫固定法を施行する.これらの方法でも20%の症例ではM蛋白を検出できないが,最近開発された遊離軽鎖(FLC)測定法では,98%の症例で検出可能である.AAアミロイドーシスについては,コントロール不良な状態が持続する慢性炎症性疾患の症例で,蛋白尿の出現や腎機能低下がみられるときは,アミロイド腎症の可能性を考慮する.FAPでは末梢神経障害,自律神経障害が通常先行し,末期に腎病変を生じる. アミロイドーシスの確定診断には組織診断が必要であり,腎生検でアミロイドの沈着を確認できればアミロイド腎症と診断される.腎生検以外に胃十二指腸粘膜生検,直腸生検,腹壁脂肪吸引生検などもアミロイドの検出に有用である.肝生検は出血の危険があるので避ける.
治療・予後
 原発性ALアミロイドーシスの予後は不良であり,特に心病変があると生命予後が悪い.全身状態などを検討し,適応のある症例については,自家末梢血幹細胞移植を併用した高用量化学療法を施行することで生存率や腎症の改善が期待される.また適応のない症例については,メルファラン/デキサメタゾン併用療法やデキサメタゾン療法を施行する.最近,多発性骨髄腫で使用されるサリドマイド,ボルテゾミブ,レナリドミドなどの新規薬剤の有用性も報告されている.多発性骨髄腫に伴うALアミロイドーシスや続発性AAアミロイドーシスについては,原疾患のコントロールが重要である.AAアミロイドーシスの最も多い原因である関節リウマチについては,抗TNF-α製剤や抗IL-6受容体抗体製剤などにより原疾患の寛解を目指した治療がなされるようになった.これらの製剤により関節リウマチに伴う既存のアミロイドーシスの改善,ならびに新規アミロイドーシスの発症抑制が期待される.[廣村桂樹・野島美久]
■文献
江原孝史:腎アミロイドーシス.腎生検病理アトラス(日本腎臓学会・腎病理診断標準化委員会 日本人病理協会編),pp155-160,東京医学社,東京,2010.
山田正仁:アミロイドーシス診療ガイドライン2010.厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 アミロイドーシスに関する調査研究班 編集発行,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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