ネフローゼ症候群(読み)ネフローゼショウコウグン

デジタル大辞泉 「ネフローゼ症候群」の意味・読み・例文・類語

ネフローゼ‐しょうこうぐん〔‐シヤウコウグン〕【ネフローゼ症候群】

腎臓の糸球体の障害により、たんぱく尿として大量のたんぱく質を喪失するため、低たんぱく血症・脂質異常症浮腫を呈する状態。腎炎などのほか、糖尿病などで二次的に起こるものもある。

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共同通信ニュース用語解説 「ネフローゼ症候群」の解説

ネフローゼ症候群

腎臓でろ過機能を担う糸球体の障害により、尿中にタンパク質が漏れ出して血液中のタンパク質が減少し、むくみが起こる病気。糖尿病などの病気が原因になることもある。ステロイドによる治療が行われることが多い。

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内科学 第10版 「ネフローゼ症候群」の解説

ネフローゼ症候群(腎・尿路系の疾患)

概念・定義
 ネフローゼ症候群は,腎糸球体係の蛋白透過性が亢進し,大量の蛋白尿とこれに伴う低アルブミン血症のために,浮腫,脂質異常症,血液凝固異常,免疫不全,易感染性などを生じる臨床症候群である.ネフローゼ症候群の診断基準は 1973 年に厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班により報告されたものが用いられてきたが,2011 年,厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会により改定された(表 11-4-1).以前は,「尿蛋白」と「低蛋白血症(または低アルブミン血症 )」が必須条件となっていたが,今回の改定では第二の必須項目が「低アルブミン血症」となり「低蛋白血症 」が削除された.これは,ネフローゼ症候群ろうの本体は糸球体からの大量の蛋白の漏であること,こうガンマグロブリンが上昇する膠病や骨髄腫に伴うアミロイドーシスなどを原因とするネフローゼ症候群においては低蛋白血症を示さない場合もあることなどの理由による.また,正確な 24 時間蓄尿をすることが必ずしも容易でないことに鑑み,随時尿での尿蛋白の基準(3.5 g/gCr)が加えられた.同時に,治療効果判定基準(表 11-4-2)と治療反応による分類(表 11-4-3)も整理された.
分類
 ネフローゼ症候群は,臨床病理学的には大きく 原発性糸球体疾患(一次性あるいは特発性 )とその他の原因疾患に由来する続発性(二次性 )に大別される(表11-4-4).病理組織学的診断により一次性疾患は微小変化型,巣状分節状糸球体硬化症,膜性腎症および増殖性腎炎(メサンギウム増殖型,管内性増殖型,膜性増殖型および半月体形成型 )に分類される.二次性は原因もしくは病因が明らかであり,特定の因果関係が推測しうる全身性疾患が存在し,表に示すように多彩な基礎疾患によって惹起される.おもなものとして糖尿病性腎症ループス腎炎,アミロイドーシス,C 型肝炎ウイルス(HCV)腎症などがある.
病理・病因
 ネフローゼ症候群の病理学的所見は,それぞれの基礎疾患により異なるが,共通した変化として糸球体係蹄上皮細胞(podocyte)の足突起の広範な融合と尿細管間質における間質浮腫と尿細管上皮細胞の空胞変性(脂肪沈着)あるいは蛋白顆粒を認める(各疾患についてはそれぞれの項に記述 ).
疫学・発生率
 新規発症のネフローゼ症候群は年間 3756 〜 4578例と推定され, 2008 年の新規発症の難治性ネフローゼ症候群は 1000 〜 1200 例と推定されている.各病型の発症頻度は年齢によって異なり,一次性では 40 歳未満においては微小変化型が多いが,高齢になるにしたがって膜性腎症の頻度が増加する.二次性では,40歳以上で糖尿病性腎症とアミロイドーシスによるネフローゼ症候群が増加している.
病態生理・臨床症状・検査成績
 正常の糸球体は尿中への蛋白の漏出を 2 つの機能で阻止している.1 つは,分子量の大きい物質の透過を阻止するフィルターの機能(サイズバリア),もう1 つは,濾過膜の陰性荷電により,陰性に荷電した蛋白を反発して通過を阻止する機能(チャージバリア)である.アルブミンは,分子量は小さいが陰性荷電しており,尿中への漏出は阻止されている.一方,免疫グロブリンなどは分子量が大きく,サイズバリアの障害により尿中に漏出する.チャージバリアのみの障害ではアルブミン主体の選択性の高い選択的蛋白尿となる.一方,サイはズバリアの破を伴う場合は巨大分子の漏出を伴う非選択的蛋白尿となる.選択性の判定は,高分子量蛋白IgG(分子量 160000,有効径 55 Å)と低分子量蛋白トランスフェリン(分子量 90000,有効径 38 Å)のクリアランスの比(CIgG/Ctf )として求められる蛋白選択指数(selectivity index)により行われる.0.25 以上の場合は選択性の低い蛋白尿,0.10 特に 0.05 以下の場合は選択性の高い蛋白尿であると判定される.
 ネフローゼ症候群の病態は,糸球体の透過性が亢進して多量の蛋白が尿中に漏出して体外に失われることに起因する(図 11-4-1).すなわち,アルブミンの喪失による低アルブミン血症,浮腫,低アルブミン血症に端を発する脂質の産生亢進と異化の低下のための脂質異常症がみられる.また,選択性の低い尿蛋白を呈する膜性腎症や膜性増殖性腎症では尿中に抗凝固・線溶系蛋白(アンチトロンビン,プラスミノーゲンなど)を喪失するために,凝固系の亢進が起こり,特に腎静脈血栓症を発症しやすい.免疫グロブリンや補体成分の尿中への喪失による免疫異常や易感染性,さらには,微量元素結合蛋白(鉄,銅,亜鉛)やホルモン・ビタミン結合蛋白(T3,T4,ビタミン D)が尿中漏出により低下し,低T3 症候群などもみられる.
1) 蛋白尿:
正常糸球体では 1.5 〜 3 g のアルブミンが濾過されると考えられているが,近位尿細管においてほぼ再吸収され,最終的には尿中アルブミンは 1 日20 mg 以下となる.
 糸球体係蹄は内皮細胞,基底膜および上皮細胞により構成されている(図 11-4-2).従来,有窓(大きな窓が開いている)細胞である内皮細胞は蛋白透過性のバリアとはなり得ず,糸球体係蹄基底膜(おもにヘパラン硫酸プロテオグリカン)ならびに上皮細胞膜の陰性荷電によるチャージバリア機能,基底膜構成成分であるⅣ型膠原線維と各種糖蛋白で形成される網状構造によるサイズバリア機能が蛋白透過性のバリアと考えられていた.しかし,最近,上皮細胞足突起間のスリット膜および内皮細胞の表面に存在するグリコカリックスglycocalyx,多糖外被 )が蛋白透過性の重要なバリアであることが示されている.先天性(家族性)ネフローゼ症候群では,上皮細胞足突起あるいはスリット膜 構 成 分 子(nephrin,podocin,CD2-associated prote in,α-actinin-4,ion channel protein tran-sient receptor potential cation channel 6)ならびに基底膜構成分子(Ⅳ型膠原線維α3,4,5)の異常により蛋白尿が生じることが明らかとなった.これらの一連の研究は,これまでおもに基底膜がバリアだとする学説に対して,新たに,スリット膜の重要性を示した.一方,糖尿病などでは,グリコカリックスの喪失(減少 )が尿中へのアルブミンの出現と関連することが示された.グリコカリックスは内皮細胞により産生されるので,アルブミン尿は内皮細胞傷害とも関連すると考えられている.ネフローゼ症候群においては,一次性にしろ,二次性にしろ,免疫・炎症機構,異常蛋白沈着あるいは糸球体基底膜構成分子異常や糸球体高血圧などの血行動態の異常により,内皮細胞,基底膜や上皮細胞が傷害を受け,糸球体係蹄の透過性亢進が惹起される.
2) 低アルブミン血症:
正常では一定量のアルブミンが肝臓で合成され,一定量が分解( 異化)され平衡を保っている.腎臓では濾過された蛋白が近位尿細管で再吸収されて分解(異化)されるが,それは体全体の 10 〜20%とされている.ネフローゼ症候群においては再吸いき収の閾をこえた多量の蛋白が濾過されるため,再吸収されない蛋白が尿中に喪失されて低アルブミン血症を呈する.一方,肝臓は血清アルブミンの減少( 膠質浸透圧 )を感知して,アルブミンの産生を亢進しようとするが,実際の産生量は,通常の 12 g/日から14 g/日程度に増加するにとどまるため,低アルブミン血症が遷延する.臨床的にはアルブミン産生を反映する血清コリンエステラーゼは正常上限から高値を示す.
 一方,肥満関連腎症などでは 3.5 g/日をこえる尿蛋白があるにもかかわらず,低アルブミン血症が起こらない(または軽度)場合もある.これは,傷害を受けているネフロン数の違いによると考えられる.図 11-4-3 に示すように,同じ尿蛋白を示しても実際に循環血液中から失われ,尿細管で異化される血清蛋白量が違う.免疫を介する糸球体疾患では,多くの糸球体が損傷される結果,低アルブミン血症の重症度が高くなる.一方,高血圧や肥満などでは損傷を受ける糸球体数が限定的であるために低アルブミン血症の程度が軽いと考えられる.
3) 浮腫:
浮腫の形成機序については,以下の 2 つが提唱されている.
 a )underfill 仮説:血漿膠質浸透圧の低下により体液が間質へ移動することにより浮腫が形成され,有効循環血液量が減少する.その結果,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系や交感神経系などが賦活化されて,二次的に水・Na の再吸収が亢進して,浮腫が増悪するとする考え方である.
 b)overfill 仮説:腎からの Na 排泄の障害による循環血液量の増加により浮腫が発症するという考え方である.ANP に対する感受性の低下,尿細管におけるNHE(sodium hydrogen exchanger)の発現増加などが報告されているがその詳細は不明である.
 微小変化型では underfill,膜性腎症などは overfillが主体であると考えられている.しかし実際には,浮腫の病態は単一ではなく,症例ごと,また同じ症例でも病期により 2 つの機序が異なる比率で存在するものと思われる.
4) 脂質異常症:
コレステロール血症,高トリグリセリド血症,リポ蛋白(a)[Lp(a)]上昇がみられる.特に微小変化型ネフローゼ症候群では,著しい脂質異常症が生じ,腎組織内に脂質が沈着することからリポイドネフローゼともよばれてきた.蛋白合成の亢進に伴う超低比重リポ蛋白合成の亢進と同時にリポ蛋白リパーゼやレシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼなどの酵素活性の低下によるリポ蛋白異化の低下によって生じる.一般に超低比重リポ蛋白,低比重リポ蛋白と中間比重リポ蛋白の増加を伴う高コレステロール血症(Ⅱa,Ⅱb,Ⅴ型 )を示し,リン脂質あるいは中性脂肪も増加する.
合併症
1) 急性腎不全:
ネフローゼ症候群における急性腎不全の合併頻度は低く,そのほとんどが微小変化型である.複数の因子が関連して引き起こされていることが多いが,なかでも低アルブミン血症に伴う有効循環血漿量(血管内血漿容量)の低下は急性腎前性腎不全の誘因であり,蛋白尿が多い症例ほど急性腎不全の合併が多い.高齢者は潜在的な急性腎不全のハイリスク群である.また,感染症(特に敗血症 ),腎静脈血栓症,利尿薬の過剰投与による循環血液量の低下,非ステロイド系抗炎症薬,RAA 系の阻害が誘因となることもある.
2) 凝固異常・ 血栓症:
肝臓での蛋白合成が亢進し,凝固因子(Ⅴ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅹ,フィブリノゲンなど)が増加する.一方,抗凝固因子(プロテイン S,アンチトロンビン )や線溶系蛋白(プラスミノーゲン)が尿中へ漏出し,これらの血中レベルが低下する.また,血小板凝集能は亢進し,治療に用いられるステロイドも凝固促進作用がある.これらの複合的な病態によってネフローゼ症候群では,凝固亢進状態になりやすい.血栓症は膜性腎症で発生頻度が高いとされているが,いずれの組織型であってもネフローゼ症候群であれば起こりうる.下肢の深部静脈血栓症,腎静脈血栓症の頻度が高く,肺血栓・塞栓症により重症化することもある.
3)易感染性:
ネフローゼ患者は各種感染症に対して易感染性を示し,感染症は重要な死因である.尿中喪失や産生低下による IgG と補体成分の低下による液性免疫の低下に加え,T 細胞系の免疫抑制もみられる.くわえて治療に用いられるステロイド・免疫抑制薬の使用に伴う免疫能の低下も関与する.
4)悪性腫瘍:
成人のネフローゼ症候群では悪性腫瘍の合併頻度が高く,膜性腎症では 3 〜 5%と報告されている.発症時期が重要であり,ネフローゼ症候群が腫瘍発見に先行するケースが約 40%,ほぼ同時に発見されるケースが約 40%,そして腫瘍発見が先行するケースは約 20%と報告されており,いずれにせよその時間差(タイムラグ )は 1 年未満とされている.1 年以上のブランクでおのおのが出現した場合は,個別の疾患として扱われることが多い.
 合併する悪性腫瘍に関しては,固形癌としては諸外国では肺癌が最も多く報告され,ついで消化器癌,腎癌と続くが,わが国では肺癌が比較的少なく,消化器系悪性腫瘍が最も多い.腫瘍と関連する免疫異常がネフローゼ症候群の発症原因になっていることが推測されるが,悪性腫瘍を外科的治療によって摘出しても,尿蛋白の完全寛解率は 50%未満である.
 ステロイド治療や免疫抑制療法は悪性腫瘍のリスクを増大させる. 免疫抑制による腫瘍免疫の低下に加え, 難治性ネフローゼ症候群で治療に用いられるシクロホスファミドは,尿中代謝物アクロレイン(acrolein)が尿路系への毒性を有しており,膀胱障害(出血性膀胱炎 )や発癌作用( 特に膀胱癌 )を有していることが知られている.
診断・鑑別疾患
 診断は先に述べた基準により臨床・検査所見に従った臨床診断と腎生検による組織(病型)診断を行う.同じ病型でも基礎疾患により治療法ならびに予後が異なる.必要に応じて合併症(後述)の診断を行う.
治療
 治療は原疾患によって異なるが, 最も大切なことは尿蛋白を減少させることである.治療後の尿蛋白の程度が腎予後を決定する最も大きな要因である.二次性の場合は原疾患の治療が重要である.尿蛋白の減少を目的とした治療と浮腫の軽減や合併症の予防を目的とした治療がある.
1)ステロイド・免疫抑制薬:
原発性糸球体疾患やループス腎炎など免疫機序が関与する疾患では,副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬により治療を行う(詳細は各疾患の項を参照).
 ステロイドの使用にあたっては,易感染性,血栓形成,骨粗鬆症,消化性潰瘍,ステロイド精神病,ステロイド糖尿病,大腿骨頭壊死症,ウイルス肝炎の再燃などの副作用に注意する.骨粗鬆症に対して,「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」は,経口ステロイド(プレドニゾロン換算 5 mg/日以上)を 3 カ月以上使用する症例では,薬物療法(第一選択はビスホスホネート製剤,第二選択は活性型ビタミンD3 製剤やビタミンK2 製剤)を推奨している.ステロイド糖尿病では食前血糖は正常でも食後血糖が高くなる.大腿骨頭壊死症の疼痛は膝痛が主体となることがあるので注意する.
 免疫抑制薬はステロイド抵抗性ネフローゼ症候群,ステロイド依存性ネフローゼ症候群,頻回再発型ネフローゼ症候群,ステロイドの高用量使用による副作用のためステロイドが十分量使用できない,などの場合で使用される. シクロスポリンなどは治療効果のみられる血中濃度と副作用が出現する濃度の幅が狭いために,症例ごとに血中濃度を測定し(therapeutic drug monitoring:TDM,治療薬物モニタリング ),至適投与量を決める必要がある.また,ほかの薬剤との相互作用により,血中濃度が変化する.
2)食事療法:
日本腎臓学会のガイドラインでは,総エネルギーは 35 kcal/kg/日,蛋白摂取量ならびに塩分は,微小変化型でそれぞれ 1.0 〜 1.1 g/kg/日と 5 g/日,それ以外の病型で 0.8 g/kg/日と 0 〜 7 g/日とする.カリウムは血清値により増減し,水制限に関しては浮腫の程度により決定する.
3)浮腫への対応:
食塩制限,安静にくわえてループ利尿薬を中心とする利尿薬を用いる.低カリウム血症を伴う場合は抗アルドステロン拮抗薬を併用する.アルブミン製剤の併用は,一過性の効果であり,サイズバリアの破綻を促進することから,利尿薬に反応しない難治性の浮腫あるいは循環血漿量の減少に伴う急性腎不全の場合に限り用いる.
4)腎保護を目指した降圧治療:
ACE 阻害薬や ARBは降圧とともに尿蛋白を減少させ腎保護作用を示す.糖尿病性腎症やステロイド抵抗性ネフローゼ症候群で使用するが,微小変化型では使用しない.塩分制限,利尿薬あるいは低蛋白食の併用で蛋白尿の減少効果が増強される.血圧の過度の低下と腎機能の悪化に注意する.
5)脂質異常症治療:
長期にわたる脂質異常症は 粥じよう状硬化のみならず,糸球体硬化ならびに間質の炎症・線維化を促進することが考えられている.低コレステロール食にくわえて脂質異常治療薬(スタチン,エイコサペイントイン酸,エゼチミブなど)が併用される.難治性巣状分節性糸球体硬化症では LDL アフェレシスが有効であると報告されている.
予防・治療
1)急性腎不全:
適切な輸液・循環管理を行う.低蛋白血症に伴う腎前性腎不全が病態の中心である場合には,患者を速やかに安静加療(入院 )させ,適切なアルブミン製剤の投与に基づく血管内液量の維持によって腎機能は速やかに改善することが多い.尿 Na 分画排泄率(FENa)を 1%以上に保つ.ただし,低アルブミン血症に対するアルブミン補充療法は,あくまで短期的な血管内液量の是正と腎血漿流量維持の目的で使用することはあっても,根本的な治療になり得るものではないので,慢性的に投与すべきものではない.感染症(特に敗血症)や腎静脈血栓症に付随する急性腎不全では,速やかに原因を除去する.RA 系阻害薬は,急性腎不全が発症した際にはいったん中止することが望ましい.ネフローゼ症候群に合併する重症の急性腎不全では,積極的に血液透析も考慮する.
2)血小板・抗凝固・線溶療法:
血小板凝集あるいは血小板由来の炎症性因子の抑制と透過性亢進の是正を目的にジピリダモールあるいは塩酸ジラゼプが用いられる.増殖性腎炎あるいは巣状分節性糸球体硬化症では,陰性荷電の保護ならびに糸球体硬化の進展阻止を目的にヘパリンの持続投与とワルファリン併用が行われる.
 すべてのネフローゼ症候群の患者に対して抗凝固療法をする必要はないが,血清アルブミン値が常に2.5 g/dL 以下の難治性ネフローゼ症候群では予防的治療を考慮することが必要である.特に,腎静脈血栓症や深部静脈血栓症の既往があるケースでは ワルファリンによる抗凝固療法が出血のリスクをこえて有用である.さらに,血清アルブミン値が 2.0 g/dL 未満の重症になれば,過凝固による血栓形成のリスクが急激に高まるため, ヘパリンにて活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT )を 2 倍以上,もしくはワルファリンにて PT-INR(プロトロンビン時間の国際標準比)が 2.0(1.5 〜2.5)になるような予防的抗凝固療法を考慮する.
3)易感染症:
ネフローゼ症候群の患者では肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される.1 日 20 mg 以上の プレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には,顕著な細胞性免疫低下が生じるため, ニューモシスチス肺炎に対する予防的投薬を考慮する.また,適宜,日感染症のモニタリングを行いながら,臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である.診療にかかわる医療従事者は,「手洗い」など感染対策を遵守し感染予防に努めるとともに,感染予防についての患者教育を行うことが重要である.
4)悪性腫瘍:
悪性腫瘍が合併する可能性を常に考慮してスクリーニングする.免疫抑制療法に伴う発癌リスクについても十分な注意を払う.近年, シクロホスファミドによる副作用による出血性膀胱炎や続発する膀胱癌に対する予防薬として メスナ(2-mercaptoethane sodium sulfonate)が開発された.メスナはアクロレインの二重結合に無障害性付加体を形成し膀胱障害を抑制することが知られている.
予後
 予後は病型と治療反応性により規定される.一次性の場合,微小変化型の予後は良好であるが,頻回再発あるいはステロイド依存性の問題がある.膜性腎症は比較的予後良好であるが治療抵抗性を示す約 30%に腎不全への進行,感染症あるいは心血管系合併症がみられる.増殖性腎炎ならびに巣状分節性糸球体硬化症では一般に治療抵抗性で微小変化型あるいは膜性腎症に比し予後不良である.二次性の場合,基礎疾患により予後が異なる.現在問題となっている糖尿病性腎症は治療抵抗性で予後は最も不良である.[伊藤貞嘉]
■文献
松尾清一, 他:ネフローゼ症候群診療指針,日腎会誌,53: 78-122, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「ネフローゼ症候群」の解説

ねふろーぜしょうこうぐん【ネフローゼ症候群 Nephrotic Syndrome】

◎尿に多量のたんぱくが出る
[どんな病気か]
[原因]
[検査と診断]
◎安静、食事、薬物療法が原則
[治療]
[予後]

[どんな病気か]
 ネフローゼ症候群は、高度のたんぱく尿と血液中のたんぱく質濃度の低下(低たんぱく血症)がおこる腎臓(じんぞう)の病気で、さまざまな程度のむくみや血液中の脂質の増加(高脂血症(こうしけっしょう))がみられます。
 原因は、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症(そうじょうしきゅうたいこうかしょう)(「巣状糸球体硬化症」)、膜性腎症(まくせいじんしょう)(「膜性腎症」)、膜性増殖性糸球体腎炎(まくせいぞうしょくせいしきゅうたいじんえん)(「膜性増殖性糸球体腎炎」)など、一次性(原発性(げんぱつせい))の糸球体の病変が代表的なものですが、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)(「糖尿病性腎症」)や全身性エリテマトーデスにともなうループス腎炎など、二次性(続発性(ぞくはつせい))の糸球体の病変も原因になります。

[原因]
 ネフローゼ症候群は、原発性の糸球体そのものの病変が原因である一次性ネフローゼ症候群と、なにか別の病気があって糸球体の病変がひきおこされる続発性の二次性ネフローゼ症候群に分けられます。
 子どもでも、おとなでも、一次性ネフローゼ症候群が多く、一次性の割合は、子どもで90%以上、おとなでは70~80%といわれています。
 発病した年齢によって、一次性ネフローゼ症候群のタイプが異なり、子どもでは微小変化型ネフローゼが圧倒的多数を占めていますが、年齢があがるとともに膜性腎症の割合が増加し、中高年層では半数以上を占めます。
 二次性ネフローゼ症候群のタイプも年齢によって異なり、子どもでは紫斑病性腎炎(しはんびょうせいじんえん)、おとなでは糖尿病性腎症やループス腎炎が多くなります。

[検査と診断]
 たんぱく尿(1日3.5g以上)と血液中のたんぱく質(おもにアルブミン)濃度の減少(血清中(けっせいちゅう)の総たんぱくの量が1dℓあたり6.0g以下、あるいは血清中のアルブミンの量が1dℓあたり3.0g以下という低たんぱく血症)が、ネフローゼ症候群と診断するのに必須の条件です。
 むくみや高脂血症は、それを補強する副所見です。
 また、尿の顕微鏡検査で、多数の卵円形脂肪体(らんえんけいしぼうたい)、縦屈折脂肪体が検出された場合は、ネフローゼ症候群診断の参考になります。
●たんぱく尿
 糸球体は、毛細血管が糸くずのようにからまりあった血液を濾過(ろか)する装置です。糸球体の毛細血管の壁は、内側から、内皮(ないひ)細胞、基底膜(きていまく)、上皮(じょうひ)細胞という3つの層でできています。
 水、ぶどう糖、アミノ酸などは小さな分子で、毛細血管の壁を通って原尿(げんにょう)(腎臓のしくみとはたらきの「腎臓のしくみ」のネフロンのしくみ)の成分になりますが、アルブミンやもっと大きいたんぱく質は、通常は、この毛細血管の壁を通ることはできません。
 なぜかというと、理由の1つは、基底膜がマイナスの電気を帯びた状態にあり、同じくマイナスの電気を帯びたアルブミンを電気的に反発しているからです(これをチャージバリアといいます)。2つめの理由は、基底膜は網目状の構造になっていて、ある大きさ以上の物質は通れないようになっているからです(これをサイズバリアといいます)。
 糸球体に障害がおこると、これらのバリアが破壊され、尿中に種々のたんぱく質がもれ出てしまいます。
 チャージバリアだけの障害なら、アルブミンなどの比較的小さなたんぱく質分子がもれ出ます(これでおこるたんぱく尿を、選択的たんぱく尿といいます)。
 サイズバリアまで破壊されると、小さなたんぱく質だけでなく、アルブミンよりも大きな巨大たんぱく分子も尿中に排泄(はいせつ)されてしまいます(これを非選択的たんぱく尿といいます)。
●低(てい)たんぱく血症(けっしょう)(低アルブミン血症)
 ネフローゼ症候群における低たんぱく血症のおもな原因は、アルブミンを主体とする血液中のたんぱく質が尿にもれ出てしまうことですが、そのほかに、全身の毛細血管のバリアがゆるくなっていること、また、腎臓でのたんぱく質の分解が増えていることなどのメカニズムも関係していると考えられています。
●むくみ(浮腫(ふしゅ))
 ネフローゼ症候群の診断基準では、むくみがなくてもネフローゼと診断できるわけですが、約80%のネフローゼ患者さんに、種々の程度のむくみがみられます。
 血液中のたんぱく質の濃度が低下すると、たんぱく質にとらえられていた血液中の水分がとどめられなくなり(少量のゼラチンでつくったやわらかなゼリーから水分がしみ出してくるのと同じ)、血管の壁を通って間質(かんしつ)(臓器の間をうめているもの)にもれ出て、これがむくみになります。
 この結果、血液の量も減るので、レニン‐アンギオテンシン‐アルドステロン系(腎臓のしくみとはたらきの「腎臓のはたらき」の内分泌(ホルモン産生))がはたらきます。アルドステロンは、尿細管でのナトリウム(塩化ナトリウム、塩は体内ではナトリウムのイオンとしてある)の再吸収を増大させますから、からだにナトリウムと水がさらにたまり、むくみがひどくなると考えられています。
●高脂血症(こうしけっしょう)
 大部分の患者さんに、血液中のコレステロールが増える高コレステロール血症がみられます。血液中の中性脂肪(ちゅうせいしぼう)も増える傾向があります。
 ネフローゼ症候群に高脂血症がおこる理由は、血液中のアルブミンの濃度が下がると、肝臓がそれを補うためにアルブミンの合成を活発に行ない、それにともなって肝臓が、低比重リポたんぱく(LDL)と超低比重リポたんぱく(VLDL)の合成も活発化するからです(リポたんぱくは、血液で脂質を運ぶときの姿で、たんぱく質で「包んで」ある脂肪と考えてよい)。
 また、動脈硬化を抑えるはたらきがある高比重リポたんぱく(HDL)が尿にもれ出るため、血液中のHDLの濃度が減少します。
●血液凝固能の亢進(こうしん)
 ネフローゼ症候群では、血液の凝固をうながす血液中のフィブリノーゲンという物質が増えます。また、血液の凝固を阻止するはたらきのある抗トロンビンⅢが、血液中から尿へもれ出てしまうため、血液は凝固しやすい状態にあり、からだの中に血栓(けっせん)(血管の中で血液がかたまると血管をふさぐことがあり、これを血栓といいます)ができやすい傾向にあります。
●合併症
 急性腎不全(きゅうせいじんふぜん) ネフローゼ症候群では、間質に血液中の水分がもれるため、からだ全体の体液量が増えているのに、からだを循環する血液量(有効循環血液量)は減少します。その結果、腎臓に流入流出する血液量も減って、腎前性腎不全(じんぜんせいじんふぜん)の状態になることがあります。
 これは、大量の発汗の後、水分の補給が不十分なときに腎不全をおこすのと基本的には同じことで、糸球体に流れ込む血液が不足して、濾過ができなくなる状態です。
 このタイプの腎不全は、適切な処置を行なえば正常にもどりますが、なかには尿細管の一部が死んでしまい、腎不全が慢性化することもあります。
 血栓形成 ネフローゼ症候群では、血液凝固能の亢進のところでも述べたように、血栓ができやすくなります。高脂血症や血液の濃縮によるねばりけの増加も血栓をできやすくします。
 血栓ができやすいのは、肺動脈(はいどうみゃく)、下肢(かし)(脚(あし))の深部静脈(しんぶじょうみゃく)、腎静脈(じんじょうみゃく)などです。肺動脈に血栓ができたり、下肢の静脈の血栓が血流にのって最終的に肺動脈につまると、肺梗塞(はいこうそく)をおこし呼吸困難になることもあります。
 また、まれには心筋梗塞(しんきんこうそく)(冠動脈血栓(かんどうみゃくけっせん))や脳梗塞(のうこうそく)(脳動脈血栓(のうどうみゃくけっせん))がおこることもあります。
 易感染性(いかんせんせい) ネフローゼ症候群では、細菌などを殺すはたらきがある、血液中の免疫グロブリンという物質も尿中に出てしまい、とくに子どもでは細菌の感染をおこしやすくなるといわれています。

[治療]
 入院して、つぎの3つの治療を行ないます。
●安静、臥床(がしょう)
 ネフローゼ症候群は、入院による安静、臥床が治療の基本です。安静にするだけで、たんぱく尿とむくみが軽くなることもあり、また安静は腎臓のはたらきを安定させます。
●食事療法
 第1に塩分の制限が必要です。必要であれば1日3gまでに制限します。その後、状態をみながら、5g、7gと増やしていきます。
 また、体重1kgあたり35kcalほどの高カロリー食をとるようにします。以前は、高たんぱく食をとるように勧められましたが、現在は否定的な意見が多く、たんぱく質については、体重1kgあたり0.8~1.0gくらいが一般的です。
 脂肪については、高脂血症がおこることもしばしばあるので、低脂肪の食事にします。
●薬物療法
 利尿薬(りにょうやく) むくみに対して使われますが、一般的にはループ利尿薬を服用します。腹水がたまって腸のはたらきが弱っている場合は、静脈注射も行なわれます。
 抗凝固薬、抗血小板薬(こうけっしょうばんやく) 抗血小板薬は、糸球体を保護するはたらきがあり、ネフローゼ症候群には幅広く使われています。
 また、ネフローゼ症候群では血液が凝固しやすい状態にあり、血栓症をおこしやすいので、その意味からも凝固を抑えるはたらきのある抗血小板薬を使うことは、有効な手段であると考えられます。
 たんぱく尿が軽い場合は使われませんが、抗血小板薬とともに、凝固を抑える薬であるヘパリンやワルファリンカリウムが使用されます。腎生検で糸球体のかたくなる硬化性の病変がみられるようなら、うってつけの薬です。
 また、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)の使用が必要になることもあるのですが、これは凝固をさらに促進するので、肺に血栓がつまる肺梗塞などがおこりやすくなります。抗血小板薬だけでは、凝固しやすい事態を防ぐことがむずかしいと判断された場合は、抗凝固薬が使用されます。
 副腎皮質ホルモン薬(ステロイド薬) ネフローゼ症候群に対する根本的な治療薬で、第1に選択すべき薬です。おとなでは、ふつう、プレドニゾロンを1日30~40mg服用して、たんぱく尿の消失や血液検査の結果がよくなるのを待って、だんだんに量を減らしていきます。
 プレドニゾロンが効かない場合は、ステロイド薬の超大量療法として、メチルプレドニゾロンのパルス療法(間をおいて大量使用をくり返す)が行なわれることもあります。
 ステロイド薬の副作用として、糖尿病、消化性潰瘍(かいよう)、ステロイド精神病、易感染性、ステロイド緑内障(りょくないしょう)、大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)などがあり、注意する必要があります。
 免疫抑制薬 初めから用いることはまずありませんが、しばしば再発するネフローゼ症候群、ステロイド抵抗性(効かない)ネフローゼ症候群、ループス腎炎に対して使われます。
 種類としては、シクロホスファミド、アザチオプリン、ミゾリビン、シクロスポリンなどがありますが、大なり小なり骨髄(こつずい)(造血作用)抑制、肝障害、性腺(せいせん)抑制などの副作用があり、慎重に用いなければなりません。

[予後]
 ネフローゼ症候群の予後は、原因となっている糸球体の組織の病変がどのようなものかによって異なります。
 微小変化型のネフローゼは、ステロイド薬がよく効き、約4分の1の患者さんは完全に治りますが、一方、しばしば再発する例も少なくありません。約10%の患者さんにはステロイド薬が効かないといわれています。このタイプでは、腎臓のはたらきが低下することはあまりありません。
 巣状糸球体硬化症はステロイド薬が効かないことが多く、ステロイド薬が効くのは3分の1以下だといわれています。ネフローゼの状態が続くようだと、治療しても状態は悪く、5年以内に腎不全におちいることもまれではありません。
 高齢者の一次性ネフローゼ症候群の多くを膜性腎症が占めていますが、基礎疾患として悪性腫瘍(あくせいしゅよう)(がん)が隠れていることもあり注意が必要です。以前は、ステロイド薬が効きにくいといわれていましたが、最近は有効な例が多いという報告もあります。
 膜性増殖性糸球体腎炎は、ステロイド薬は効きにくく、ネフローゼ状態が続く例では、腎臓のはたらきが悪化していきます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネフローゼ症候群」の意味・わかりやすい解説

ネフローゼ症候群
ねふろーぜしょうこうぐん

腎臓(じんぞう)の糸球体濾過(ろか)膜の異常によって透過性が高まり、大量のタンパク(アルブミンやグロブリンなど)が尿中に喪失し、全身の浮腫(ふしゅ)(むくみ)、高度のタンパク尿、乏尿をきたす腎疾患をいう。真性(リポイド)ネフローゼとネフローゼ型慢性腎炎、およびその他の原因による二次性ネフローゼに分けられる。

[加藤暎一]

真性ネフローゼ

原因は不明で、おもに小児にみられる。症状は、全身の倦怠(けんたい)感、顔面の浮腫、尿量の減少、タンパク尿、血液中のタンパク質量減少(とくにアルブミンの減少)、コレステロールの増加などがあげられる。血圧は正常で、腎機能も低下せず、尿の比重も高い場合が多い。予後は幼児や若年者では悪くないが、成人では長い経過を経て腎機能が侵されることが多い。治療としては、ナトリウムの制限、高タンパク食、利尿剤の投与、副腎皮質ホルモンの投与などが有効である。

[加藤暎一]

ネフローゼ型慢性腎炎

慢性腎炎のうち、浮腫および高度のタンパク尿をきたすもので、原因は腎炎と同じである。症状は浮腫、乏尿、タンパク尿があり、この疾患では血圧が高くなり腎機能も障害される場合がある。予後は真性ネフローゼより悪いことが多い。治療は慢性腎炎に準じ、食事療法が主で、薬剤による治療効果はあまり期待できない。

[加藤暎一]

その他の原因による二次性ネフローゼ

糖尿病、循環障害、感染症、腫瘍(しゅよう)、膠原(こうげん)病、妊娠、薬剤、中毒などによる二次性ネフローゼで、予後は原因疾患により異なり、治療も原因疾患に応じて行われる。原因疾患の判明しているものではその治療により、また薬剤などによるものではその投与を中止することにより、それぞれ症状の改善をみることが多い。

[加藤暎一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

食の医学館 「ネフローゼ症候群」の解説

ねふろーぜしょうこうぐん【ネフローゼ症候群】

《どんな病気か?》


 ネフローゼ症候群(しょうこうぐん)は1つの病気ではなく、原因にかかわりなく、尿にたんぱくがでて、その結果、血液中のたんぱくの減少(低(てい)たんぱく血症(けっしょう))が起こる腎臓病(じんぞうびょう)の総称で、症状としては強いむくみが、合併症としては脂質異常症がみられます。
 原因は腎炎(じんえん)など糸球体(しきゅうたい)の病変によるものがほとんどですが、糖尿病(とうにょうびょう)や全身性エリテマトーデスなどといったほかの病気の合併症や症状として、腎臓がおかされて起こる場合もあります。

《関連する食品》


○注意すべきこと
 以前は、低たんぱく血症を補うために高たんぱく食が基本とされていましたが、腎臓に負担がかかるため現在では、たんぱく質は標準所要量にとどめられています。
 塩分はきびしく制限され、とくにむくみや腹水(ふくすい)(腹部に水がたまって腫(は)れる)があるときは、塩分は5g/日までにします。脂質異常症を誘発するので、動物性脂肪も避けましょう。
 肥満状態にあればエネルギー制限をしますが、肥満がなくても標準体重1kgあたり1gの程度の制限にします。
〈スイカやトマトからカリウムを摂取する〉
○栄養成分としての働きから
 腎疾患に共通して有効な成分をとることを心がけます。むくみが強く、尿量が少ないときは水分も制限しますが、利尿剤(りにょうざい)が処方されているときは、十分に水分をとります。
 血清のカリウム量に問題なければ、カリウムの制限はありません。

出典 小学館食の医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ネフローゼ症候群」の意味・わかりやすい解説

ネフローゼ症候群
ネフローゼしょうこうぐん
nephrotic syndrome

蛋白尿 (1日尿蛋白量 3.5g以上を持続) ,低蛋白血症 (血清の総蛋白量 6.0 g/dl 以下) ,高脂血症 (血清総コレステロール 250 mg/dl 以上) および浮腫を主症状とする症候群。原因としては,膜性糸球体腎炎,全身性紅斑性狼瘡,糸球体腎炎,糖尿病,アミロイド症,多発性骨髄腫などがある。腎機能は通常侵されないが,再発を繰返す難治性の腎臓病である。治療には塩分制限,高蛋白食,副腎皮質ステロイド剤の投与を行う。利尿剤や血漿代用剤は,浮腫が強い場合に補助的に使用する。歴史的にみると,かつてドイツ学派は,腎臓病を腎炎,ネフローゼ,腎硬化症に三大別し,ネフローゼを炎症による病変ではなく,尿細管上皮の変性による疾患であると定義した。この場合のネフローゼは,腎機能は正常で,高血圧はなく,血尿もなく,予後良好なもので,真性またはリポイドネフローゼとも呼ばれた。しかし,その後このような条件に合致するネフローゼの存在が疑問視され,最近では,小児にまれに存在するだけで,本来のネフローゼとは腎炎の病期の一つを表わすにすぎない病態と理解されている。アメリカ・イギリス系の学者は,早くから本症を症候学的にとらえる立場をとっており,日本でも,ネフローゼ症候群として概念が統一されることになった。

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栄養・生化学辞典 「ネフローゼ症候群」の解説

ネフローゼ症候群

 多量のタンパク尿,低タンパク質血,高脂血症,浮腫などの症候群.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のネフローゼ症候群の言及

【ネフローゼ】より

…かつては尿細管の病変によってタンパク尿と浮腫を伴う腎臓の疾患を指したが,近年では,糸球体の病変によって生じ,高度のタンパク尿と低タンパク血症を伴う症候群を指し,医学的にはネフローゼ症候群nephrotic syndromeと呼ばれる。1905年,F.vonミュラーが腎臓疾患を炎症性疾患と尿細管の変性疾患に大別し,後者をネフローゼと呼んだ。…

【腹水】より

…漏出性腹水は,タンパク質濃度は1g/dl前後で,比重は低く細胞成分も少ない。漏出性腹水は,肝硬変,腎臓疾患ことにネフローゼ症候群,心不全などでみられる。肝硬変症では,肝細胞障害により肝臓のアルブミン合成能が低下するために,血中のアルブミン濃度が減少してコロイド浸透圧の低下を起こし,血液の漏出が起こりやすくなる。…

※「ネフローゼ症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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