腎生検(読み)ジンセイケン

内科学 第10版の解説

腎生検(腎・尿路系の疾患の検査法)

(4)腎生検(renal biopsy)
a.歴史背景
 1900年代初頭にニューヨークの産婦人科医によって外科的に行われたのが世界ではじめての腎生検といわれている.今日行われているような腎生検は,1949年デンマークのコペンハーゲンにおいてPaul IversenとClaus Brunによって最初に行われ,以後,腎疾患の診断方法として広く認識されるようになった. 腎生検は当初座位で行われていたが,1954年にRobert Karkらは腹臥位にてシルバーマン(Vim-Silverman)針を使用して腎生検を行ったと報告している.腎臓の位置の確認はX線で行われていたが,超音波による画像診断が普及してくると腎生検の安全性は向上した.さらに,自動生検針が導入された現在では,さらに安全で確実に組織を採取することが可能になった.
 また,光学顕微鏡のみならず,電子顕微鏡さらには免疫組織化学(蛍光抗体法,酵素抗体法など)の技術を使って腎生検で得られた組織を総合的に検討することが一般に行われるようになり,腎臓病に関するわれわれの知識は飛躍的に増加した.1982年にWHOの腎疾患組織分類会議の結果が出版され,その後改定され,これが現在の腎疾患診断のスタンダードとなっている(Churgら,1995).
b.臨床的な有用性
 剖検によってしか腎疾患を観察し得なかった時代には腎疾患の病態はほとんど不明であったが,腎生検が行われるようになると腎疾患の病像や経過が明らかになってきた.また,治療の前後で腎生検を行うことで治療効果を組織の変化としてとらえることができ,治療法そのものの正確な評価も行えるようになってきた.このように腎疾患の臨床には有用性の高い検査方法であるが,実はいくつかの問題点もある. その第一は組織の評価の客観性と定量性の問題である.腎生検診断は主として経験的なものであるため,その客観性や再現性が問題となる.さらに,腎生検によって得られた情報はほとんど定性的に評価されるが,施設間あるいは国際的な臨床研究を行う場合定量的な評価が必要になる.しかし,定量的評価法のスタンダードは現在のところない. 次に,腎生検組織像と予後との関係である.左右で200万個あるといわれている糸球体のうち,生検で得られる糸球体は針生検の場合せいぜい10~20個,多くて30個程度である.急性の腎疾患ではびまん性に変化が来るので,採取された腎組織で正確な診断が可能になる.しかし,慢性の腎疾患では組織変化が不均一になっている.したがって,針生検により得られた組織の変化が腎臓全体を代表しているかどうかはわからないため,「得られた腎生検組織像が予後を反映するとは限らない」という問題は常についてまわる.
c.腎生検の適応(表11-1-17)
 両側のびまん性の腎疾患が疑われ,組織診断が治療方針や生活指導などに活かせる可能性がある場合に腎生検が適応になる.また,診断困難な全身疾患で,診断のために腎生検が適応になることもある(結節性多発動脈炎やアミロイドーシスなど).以下,腎の症候にしたがって腎生検の適応について述べる.
ⅰ)ネフローゼ症候群
 小児では80%以上が微小変化群でステロイドに反応するため,腎生検を行わずにまずステロイド治療を行うのが一般的である.ステロイドに抵抗性だったり,頻回に再発する場合に巣状糸球体硬化症などほかの疾患の可能性があるため腎生検が適応になる.成人では膜性腎症の割合が増加すること,微小変化群でもステロイド抵抗性のものが20~30%はみられること,また,アミロイドーシスによるネフローゼ症候群の可能性も否定はできないことから腎生検を行うのが原則である.ただし,糖尿病を合併したネフローゼ症候群で,病歴やほかの合併症(網膜症,神経障害)から糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群が最も可能性が高い場合には,腎生検は行わない傾向にある.
ⅱ)急速進行性腎炎症候群/急性腎不全
 この症候群をきたす疾患は多彩であり,血管炎,半月体形成性腎炎,血栓性細小血管障害あるいは急性間質性腎炎などが原因疾患としてあげられる.超音波などの画像診断で腎臓が萎縮していないことが確認できたら腎生検の絶対適応である.また,原因不明の急性腎不全では画像診断で腎後性急性腎不全を否定でき,かつ,腎臓が萎縮していなければ腎生検の適応がある.急性のアレルギー性間質性腎炎による急性腎不全ではステロイドが有効である
ⅲ)慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)
 蛋白尿血尿がみられ,徐々に腎機能が低下するようなCKDでは,腎機能低下が高度でなく,かつ腎臓の萎縮がないときには腎生検の適応がある.
 蛋白尿が一過性あるいは起立性の場合には,有意な糸球体病変がみられることはまれである.また,無症候性の顕微鏡的血尿では尿路系の疾患が除外されても,経過中一度も蛋白尿のみられない場合には糸球体病変があることはまれである.顕微鏡的血尿でも蛋白尿あるいは腎機能障害を伴っている場合には腎病変が70~80%の患者にみられる.これらのことを考慮して,①尿蛋白が0.5 g/日(または0.5 g/gCr,尿蛋白・尿クレアチニン比)以上の場合,②尿蛋白が0.5 g/日(または0.5 g/gCr)以下でも顕微鏡的血尿を伴う場合,に腎生検の適応があると考えられる(日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイド2009」).
 血尿でも,沈渣の赤血球に変形を70%以上に認める場合や赤血球円柱を認める場合は糸球体疾患である.また,咽頭炎などの感染時に一過性に肉眼的血尿を認める場合は,IgA腎症の可能性がある.家族歴のある顕微鏡的血尿や肉眼的血尿は遺伝性腎炎や菲薄基底膜病などの可能性がある.これらの場合も腎生検の適応があると考える.
ⅳ)全身性エリテマトーデス/その他の膠原病,血管炎など
 本疾患に伴う腎病変は生命予後に関係するので,診断して治療方針をたてることは重要である.全身性エリテマトーデスと診断された患者の尿に異常所見があれば腎生検の適応がある.腎生検で増殖の強い糸球体腎炎であれば,強力な免疫抑制療法が予後を改善させるためには必要になる.しかし,尿所見が陰性でも腎生検すると活動性のループス腎炎が見つかる(silent lupus nephritis)ということも報告されており,全身性エリテマトーデスでは尿中微量アルブミンが増加しているだけで腎生検を施行した方がよいという考え方もある.
 全身性エリテマトーデス以外の膠原病でも腎臓の合併症が疑われる場合には,積極的に腎生検を行い治療方針を決定する.また,尿所見が軽度であったり,腎機能が正常であっても,不明熱などで血管炎を除外できないときに腎生検を行うこともある.
ⅴ)移植後の腎生検
 移植腎の生検は比較的安全に行え,急性の拒絶反応の有無とその程度を診断するために有用である.また,慢性期に腎機能が低下した場合にその原因が,①慢性の拒絶反応なのか,②免疫抑制薬の副作用なのか,あるいは③原疾患の再発なのかを鑑別するためにも有用である.
ⅵ)その他
 糖尿病性腎症が確実であると考えられる場合は腎生検の適応はない.しかし,糖尿病性網膜症や糖尿病性神経症がないにもかかわらず高度の蛋白尿がみられる場合,糖尿病の長期コントロールがよいにもかかわらず高度の蛋白尿がみられる場合,あるいは蛋白尿とともに血尿がみられる場合などは,ほかの腎疾患である(あるいは糖尿病性腎症にほかの腎疾患が合併している)可能性があるので腎生検の適応がある(日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009」).
d.腎生検の禁忌(表11-1-18)
 出血傾向のある患者,極度に衰弱している患者,あるいは管理困難な全身合併症のある患者では禁忌である.また,大量の腹水や胸水のため腹臥位をとったり,呼吸を停止することができなければ施行は困難である.胸水や腹水を減らす処置を行ってから施行する.また,協力的でない,あるいは理解力が不足するなどの理由で術後の安静が確保できないような患者では腎生検は行わない.高血圧は術後の出血の危険因子である.十分に血圧をコントロール(少なくとも140/90 mmHg以下)してから腎生検は施行する. 腎機能障害があり,さらに腎臓の萎縮している場合には腎生検を行っても治療方針を左右する情報は得られないので,原則的には腎生検の適応外である.囊胞腎や水腎症も同様な理由で腎生検の適応外である. 先天性あるいは後天性の片腎の場合,針生検は避ける.治療上,どうしても腎生検が必要なら解放腎生検を行う.最近では,後腹膜内視鏡を用いた腎生検も可能になっている.
e.腎生検の実際の概略
 ⅰ)術前処置
1)画像診断:
腎エコー,経静動脈腎盂造影(腎エコーで代用できる)にて,萎縮のないこと,大きさに左右差がないことなどを確認しておく.
2)患者(および家族)への説明と同意:
腎生検の前に,患者(および家族)に検査の意義,方法および考えられる合併症について説明し,納得してもらったうえで承諾書に署名をもらう.
ⅱ)手技の概略
(図11-1-23)①腹臥位で超音波で腎臓の位置を確認して,左または右の腎部を消毒する.②局所麻酔:超音波ガイド下に腎の下極部に穿刺部位を定めてから局所麻酔を施行する. ③生検はディスポーザルの生検針を用いた自動生検針が用いられることが多い.④軽い吸気で呼吸を停止し,腎の下極から組織を得る.
ⅲ)得られた腎組織の扱い
 生検により得られた腎組織には機械的な圧迫を加えたり乾燥させたりしてはならない.光学顕微鏡(低倍率)により糸球体が十分採取されているかを確認する.組織を光学顕微鏡検査用,免疫組織学的検査(蛍光抗体法)用および電子顕微鏡検査用にわけて,それぞれの固定液に入れる.
ⅳ)術後処置
①原則として24時間床上仰臥位安静.最初の6時間は絶対安静.②第1尿から第3尿まではかならず目で肉眼的血尿がないか確認する.
f.合併症とその処置
ⅰ)出血
 腎外血腫は必発であるが,通常自覚症状はない.微熱がみられることもある.重い感じあるいは疼痛として感じられることもある.無処置で経過観察する(血腫は数週間で完全に吸収される).顕微鏡的な血尿はほとんど全症例でみられるが,特に処置を要しない.大量に腎内出血をきたした場合には肉眼的血尿となる(約10%の頻度).高血圧や腎機能障害があると出血の危険は増大する.出血は通常2~3日で自然に止まる.出血が持続する場合には,動脈造影により出血部位を確認して人工塞栓で出血を止めたり,場合により,外科的な処置が必要になる(約0.3%の頻度).
ⅱ)感染
 まれに,腎外血腫や腎内に感染を起こすことがある.腎生検後2~3日たってから発熱と腰背部疼痛をみる(腎生検当日の微熱は感染ではなく出血による).抗生物質による強力な治療が必要になる.予防には術中の清潔を確保するとともに術後の抗生物質の投与が重要.[木村健二郎]
■文献
Churg J, Bernstein J, et al: Renal Disease: Classification and Atlas of Glomerular Disease. (2nd ed), Igaku-Shoin, New York, Tokyo, 1995.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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