薬物を加工して使用に便利な形状(剤形)にすること,およびその結果できた製品を製剤という。生理的活性物質を医薬品として利用するためには,有効性,安全性,安定性,使用性などの点で最も適した剤形にする必要がある。それで製剤にあたっては用法の開発,速効性,遅効性,持効性,副作用の軽減,バイオアベイラビリティの改良,味・におい・刺激性の改良による服用のしやすさ,さらに物理化学的な安定性,含量均一性,溶出性,温度・湿度・光・微生物など外的因子による影響の防止など,有効性その他を高めるための品質確保にくふうがなされている。製剤工場では〈医薬品の製造と品質管理に関する基準Good Manufacturing Practice(GMPと略記)〉に基づいて医薬品の製造がなされている。GMPの内容は,(1)人為的な誤りを最小限にする,(2)医薬品に対する汚染や品質変化を防止する,(3)高度な品質を保証するシステムを設計する,という3点で,いずれもソフト面,ハード面に分けて高度な作業基準が定められている。
剤形は《第十改正日本薬局方》の製剤総則に26種記載されているが,局方外にも数種の剤形がある。
内服する,つまり経口投与される製剤は,エキス剤,エリキシル剤,カプセル剤,顆粒剤,丸剤,懸濁剤,細粒剤,散剤,酒精剤,錠剤,シロップ剤,浸剤・煎剤,チンキ剤,芳香水剤,リモナーデ剤,流エキス剤である。よく用いられる錠剤,カプセル剤を例にとると,服用後,消化管内において崩壊→分散→溶出のプロセスを経て,消化管粘膜で吸収される。主薬が胃酸によって分解されるものや胃粘膜を刺激しすぎるものなどは,腸へ移行してから崩壊するようにくふうされており,これは腸溶性製剤と呼ばれている。したがって腸溶性製剤はかみくだいて服用してはならない。
口腔内に入れて利用する製剤には,舌下錠,バッカル錠,トローチ剤がある。舌下錠は粘膜を通してより速効的に,バッカル錠は粘膜を通してより持続的に,いずれも全身作用をあらわす。トローチ剤は口腔・咽頭粘膜に局所作用を及ぼす。
直接体内に注射器で注入され,血管内に吸収される製剤は注射剤で,溶液,懸濁液,乳濁液および用時溶剤に溶かして用いる四つのタイプがある。いずれも速効性である。目に用いられる製剤は,点眼剤と眼軟膏剤で,角膜,粘膜に適用する。注射剤,点眼剤,眼軟膏剤はいずれも無菌的に製剤する。
皮膚に用いられる製剤には,硬膏剤,散布剤,酒精剤,チンキ剤,軟膏剤,パップ剤,浴剤,リニメント剤,ローション剤がある。これらの外用剤は一般に皮膚の局所効果を期待して用いられる。また経皮吸収による全身作用をもつ軟膏も開発された。
口以外の体孔部にさし入れて用いる製剤には,座剤,腟座剤がある。一般に適用部位で局所作用を示すが,粘膜を通して全身に作用を及ぼすものもある。
気道・呼吸器に用いられる製剤は,吸入剤,エーロゾル剤である。吸入剤は消炎,収斂(しゆうれん),鎮咳などの目的で吸入される。エーロゾル剤は噴霧して用いる。
製剤化された医薬品が,適正な含有量で安定性が保証され,効果が十分発揮されるように,錠剤,カプセル剤,注射剤などは《第十三改正日本薬局方》で定められた試験法に適合することが決められている。
執筆者:杉原 正泰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
薬物を投与に適した形、性状に調整すること、およびそのように調整された医薬品そのものをいう。薬物をそのまま生体に投与することはきわめて少なく、ほとんどは賦形剤その他の添加剤を加え、内用、外用、注射という投与ルートに適した形、性状にして用いられる。原料となる薬物は原薬という。したがって医薬品には原薬と製剤がある。第十五改正日本薬局方では製剤総則で一般的注意事項として製剤通則を定め、28の剤形が規定されている。しかし市販品には、日本薬局方に規定されていない剤形もある。
[幸保文治]
… 卸,問屋も,医療用医薬品と一般用医薬品とを専門に扱う二つの系統に分かれている。小売業種も,薬局,薬店(薬種商),一般販売業,特例販売業の4種に分かれ,薬局では薬剤師が処方調剤や自家製剤を行い,指定医薬品(厚生大臣が品目を指定し,取扱い上の規制をしているもの),要指示薬品(乱用による弊害のゆえに,とくに取扱いを厳重にしているもの,および医師の処方箋または指示によらなければ交付を禁じられている医薬品)等,医薬品全品目を販売することが認められている。一般販売業では,薬剤師を専任管理者とする処方調剤などは行えない。…
…植物,動物および鉱物の天産物をそのままか,またはその一部,あるいは動植物のエキス,分泌物,細胞内含有物を乾燥など簡単に加工を施し,薬用に供するものである。しかし,直接医薬品となるものばかりでなく,生薬製剤,成分製剤の原料となるもの,ならびに香辛料,香粧品,工業薬品などの原料をも含む。生薬は乾燥などによって腐敗やカビなどの繁殖を防ぎ,動植物自体の酵素反応を妨げ,化学的,生化学的に経時変化の少ないものが常時利用できるようになった。…
※「製剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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