日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
アート・ドキュメンテーション
あーとどきゅめんてーしょん
art documentation
美術関連の情報の生産、流通、収集整理を行う技術、研究、サービスの総称。具体的には、美術館、美術系大学・専門学校などの図書室、資料室における画像資料や文献資料の収集整理や情報提供などがそれに相当し、美術作品や作家に関する書誌や年譜やデータベースの作成、分類法や修復保存の研究などもこれに含まれる。またテクノロジーの著しい発展は、この分野とコンピュータとの結びつきを不可分なものとした。また、美術史、作品研究の専門家としての学芸員や美術史家、図書情報の専門家としての図書館司書、情報工学の専門家としてのエンジニアなど、諸ジャンルの専門家と専門的知識が関わる学際的な領域である。
アート・ドキュメンテーションは所蔵作品の情報管理を行う「コレクション・ドキュメンテーション」と、文献情報や電子情報を管理する「レジストレーション」に分けられる。この双方の機能が集約されている美術館は特権的な地位を占める施設であると考えることができる。このため、一般の美術館におけるドキュメンテーション活動は個別にミュージアム・ドキュメンテーションと呼ばれる。もちろん、ドキュメンテーションの専門性という見地に立てば、美術史と図書館情報学の双方に精通した専門家が美術館の図書室司書を務めるのが望ましいが、ドキュメンテーションの専門性が確立されていない日本はそのような人材に乏しく、学芸員が職務の一環として行う。
ミュージアム・ドキュメンテーション研究の進んだ欧米諸国ではさまざまな分類基準が確立されており、データ管理や来館者へのサービスとして使われている。イギリスのミュージアム・ドキュメンテーション協会(MDA)のデータ標準、国際博物館会議(ICOM)が作成したデータモデル、フランスの分類基準であるジョコンド(JOCONDE)などがその代表的なものであり、また画像資料に関してもヨーロッパで使われているアイコンクラス(ICONCLASS)のような分類体系がある。この分野の研究が立ち遅れていた日本でも、1989年(平成1)にはアート・ドキュメンテーション研究会(JADS=Japan Art Documentation Society)が発足し、美術史学・図書館情報学が連携し、新しいアーカイブや検索システムの確立に力を注いだ。バーチャル・ミュージアムやデジタル・アーカイブが浸透した結果、アート・ドキュメンテーションの重要性がさらに高まるため、大学教育などによる専門的なドキュメンタリストの養成が必要である。
[暮沢剛巳]
『アート・ドキュメンテーション研究会編・刊『美術情報と図書館報告書』(1994)』▽『岡部あおみ監修『ミュゼオロジー実践篇』(2003・武蔵野美術大学出版局)』