バーチャル・ミュージアム(読み)ばーちゃるみゅーじあむ(英語表記)virtual museum

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

バーチャル・ミュージアム
ばーちゃるみゅーじあむ
virtual museum

インターネットなか構築される美術館総称で、仮想美術館や電脳美術館などと呼ばれることもある。作品画像や情報はすべてデジタル化されてディスプレー上に表示される。多くの美術館がバーチャル・ミュージアムを開設し、展覧会案内や館へのアクセス方法など現実の展示と連動したサービスを提供しているが、その一方で現実に対応する施設を持たないネット上だけのミュージアムも多い。

 ルーブル美術館に始まる近代美術館は膨大な作品や情報をのみ込んで分類・整理した結果、コレクションも展示施設も増加・巨大化の一途をたどってきたが、いかなる巨費を投じたとしても現実に収集可能なコレクションには限りがあるため、収集不可能な理想のコレクションを写真によって再現しようとする考え方が登場する。フランスの作家アンドレ・マルローの「空想の美術館」(写真による泰西名画で構成された架空の美術館)やドイツの美術史家アビ・ワールブルクの「ムネモシネ」(写真による図版コレクション。研究用データベースとしての側面を強く持つ)といった企ては、いずれも現実には収集不可能な理想のコレクションを図像によって構成しようとしたものであり、フロッピーディスクやCD-ROMといったコンピュータ・テクノロジーの発展による記録媒体の登場は、そうした企てのハイテク化を推し進めることになった。なかでも、インターネットの登場は決定的な出来事であった。インターネットの原型は1970年代に既に登場していたが、まだ一般になじみのなかったころ、その可能性にいち早く注目したのがイギリスのSF作家のウィリアム・ギブソンWilliam Gibson(1948― )であった。ギブソンは、84年の小説『ニューロマンサー』でコンピュータがつくり出す空間を「サイバースペース」と命名、この内部が無限の拡がりを持ち、また自在に移動でき、現実の空間ではけっしてなしえぬことを可能とする性質を持っていることを示した。その性質はWWW(World Wide Web)の開発によってインターネットの商用利用が開始された92年以後よく知られるようになり、またコンピュータ・テクノロジーが名画コレクションの構想で使われるようになって以来、多くの美術館やアーティスト、研究者がバーチャル・ミュージアムの構築に励み、10年のうちに乱立状況へと至った。

 バーチャル・ミュージアムは、大きく二つのタイプに分けて考えることができる。一つはデジタル化された作品画像や情報を分類・整理し格納しているデータベースで、検索しやすい形式でデータを保存するなど、主に研究目的で構築されることが多い(記録媒体を用いて、現実の空間上に構築された場合はデジタル・アーカイブと呼ばれる)。もう一つがHTML言語やプラグ・インなど、インターネット特有の表現を用いて制作されるネット・アートで、バーチャル・ミュージアムはそのための展示会場として活用される。CAD(Computer Aided Design)によって制作されるバーチャル・アーキテクチャーもネット・アートのなかに含めることができる。

 この二つは用途に応じて使いわけられるが、美術館によっては両者を同時に展開している場合もある。また、バーチャル・ミュージアムの特筆すべき特徴として、端末さえ接続されていれば世界中どこからでもアクセスが可能な、場所を選ばない点が挙げられる。現実にはなかなか訪れる機会のない外国の美術館訪問を代行する体験であると同時に、美術館相互のネットワーク機能も果たしている。

[暮沢剛巳]

『暮沢剛巳著『美術館はどこへ?』(2002・廣済堂出版)』『ヒューバート・ドレイファス著、石原孝二訳『インターネットについて』(2002・産業図書)』『喜多千草著『インターネットの思想史』(2003・青土社)』『Mark PosterWhat's the Matter with the Internet? (2001, University of Minnesota Press, Minneapolis)』

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