日本大百科全書(ニッポニカ) 「アーベル群」の意味・わかりやすい解説
アーベル群
あーべるぐん
可換法則を満たす群、すなわち任意の元a、bに対し、ab=baを満たす群をいい、可換群ともいう。ノルウェーの数学者アーベルが代数方程式の解法に関連して考察した。演算記号がプラスで表されているときは、加群をなすということが多い。たとえば、整数の全体Zは加法に注目すれば、加群をなす。単位元は0で、整数zの逆元は-zである。
有理数の全体から0を取り除いた集合は乗法に関してアーベル群をなす。単位元は1で、0でない有理数rの逆元はr-1である。アーベル群のなかでいちばん単純なものは、ただ一つの元から生成される群、すなわち巡回群である。たとえばωを1の3乗根とし、ω≠1とし、
G={1,ω,ω2}
という集合を考えると、Gは群をなしている。しかもすべての元がωn(n=0,1,2)の形で表せる。つまりGはωを生成元とする巡回群である。また整数の全体Zは1を生成元とする無限巡回群である。なぜなら
Z={n・1|n=0,±1,±2,……}
と表せるからである。ここにn・1はnが正ならば1をn個加えたものであり、nが負ならば1を|n|個加えたものの逆元である。有限個の元から生成されるアーベル群は、いくつかの有限巡回群といくつかの無限巡回群の直積となることが証明される。これを有限生成アーベル群の基本定理とよぶ。
アーベル群はクロネッカーやフロベニウスなどによって1870年代から盛んに研究され始め、基本定理もそのころ証明を与えられたものである。
[足立恒雄]