法律上は裁判の前提となる事実について,その間違いのないことを明らかにすることをいい,裁判官からみれば間違いないとの確信をいだいてよい状態のとき,証明があったといい,当事者からみればそのような状態にさせるための立証活動を証明するという。証明は通常,過去の事実に関するものであるため,数学的,論理的,科学的証明に対して歴史的証明といわれる。訴訟上の証明は,何を(証明の対象),何によって(証拠方法),どのように調べ(証拠調べ),どのように認定し(自由心証主義),どの程度で証明があったとするか(証明の程度)が問題となる。
証明の対象は,通常は法規の要件に相当する事実(主要事実)であって,おもに過去の事実の存否であるが,将来の事実の場合もあり,経験則や外国の法規も証明が必要となる場合がある。公知の事実(たとえば,関東大震災が起こったこと)や裁判所に顕著な事実(たとえば,破産宣告がなされたこと)は証明不要であるが,当事者が自白した事実については,民事訴訟法が証明を不要とする(179条)のに対し,刑事訴訟法は自白のみでは有罪とされないとしている(319条2項,憲法38条3項)ので,補強証拠が必要となる。自白偏重による拷問の弊害を除去しようとするものである。さらに自白調書は取調べの時期についても制限がある(刑事訴訟法301条)。証拠方法には証人,鑑定人,当事者本人,文書,検証物などがあるが,刑事訴訟法では伝聞証拠や違法収集証拠の証拠能力が問題となる。証明力(または証拠力)が裁判官の心証を強める力をいうのに対し,証拠能力とは証拠として法廷に持ち出しうる適格性をいうので,これが否定されると証拠として考慮される余地がなくなる。このような法で定められた証拠調べの方式に従うものを〈厳格な証明〉,そうでないものを〈自由な証明〉といい,権利や犯罪の存否については厳格な証明が必要だが,訴訟要件や訴訟条件については自由な証明でよいとされている。
裁判官はあらゆる経験則と論理法則によって,証拠を自由に評価して当該事実があったかなかったかを認定する。これを自由心証主義というが,証明の程度について,民事では通常人が疑いをさしはさまない程度に真実性の確信を持ちうる程度が必要とされ,刑事ではこれより厳しく,合理的な疑いを超える程度の証明が必要だと説明される。これに対し,疎明は一応の確からしさで満足する。公害訴訟で話題となった疫学的証明とは,集団における病気などの原因や発生条件を,統計的な手法によって解明しようとするもので,訴訟上の証明との類似性が評価された。証明は通常の民事訴訟では当事者の責任であるが(弁論主義),どちらの当事者に負担させるかが証明責任分配の問題であり,それを負う者の証明を本証といい,相手方の証明を反証という。反証は裁判官の確信を動揺させるだけで目的を達する。
→証拠
執筆者:竜㟢 喜助
一つの命題を証明するということは,その命題の仮定の部分と既知の定理,すなわち正しいことがすでに証明されている命題とを基礎にして,結論を論理的に導くことである。また,その推論を証明という。“証明する”“証明”は,“論証する”“論証”ともいう。数学では一つの理論体系を作るのに際して,一つの公理系,すなわち,いくつかの公理を定めて,その公理を基礎にして証明される命題,すなわち定理を順次作っていくのである。したがって,ある公理系によって築いた理論体系内の証明は,他の公理系のもとでの場合に,そのまま適用できるとは限らない。
証明のしかた,すなわち証明法は直接証明法と間接証明法とに分けられる。直接証明法は仮定から出発して,既知の定理などを利用しながら三段論法によって進むものである。直接証明法でないものが間接証明法であるが,その中には同一法,転換法,背理法がある。これらのうち,背理法がもっとも重要であり,それは,証明すべき命題の結論の否定を仮定に加えて矛盾を導く方法で,帰謬法とも呼ばれる。
執筆者:永田 雅宜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
刑事訴訟法では、要証事実に対する証拠の効果をいう。近代以前には、有罪か無罪かを決定する証明の有無を、法が定める証拠の存否により決定する法定証拠主義がとられ、とくに自白が重視されたため、拷問を許容することとなった。そこで、近代以降は、証拠を法定することにかわって、証拠の価値(証拠価値)は裁判官の自由な判断にゆだねることとされた。刑事訴訟法も、「証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委(ゆだ)ねる」(同法318条)との規定を置いて、このような自由心証主義を採用することを宣言している。
被告事件について犯罪の証明があれば、原則として、判決で刑の言渡しをし(同法333条1項)、被告事件が罪とならず、または被告事件について犯罪の証明がないときは、無罪の判決をする(同法336条)。
証明には、厳格な証明、自由な証明、疎明の3種がある。
厳格な証明とは、証拠能力があり、かつ適法な証拠調べを経た証拠(厳格な証拠)による証明をいい、罪となるべき事実(同法335条1項)の存在や違法阻却事由、責任阻却事由の不存在を証明するためには、すなわち被告人が有罪であることを証明するためには、検察官はこれを厳格な証拠によって、合理的な疑いを超える確信を裁判官に抱かせる程度まで証明しなければならない。処罰条件たる事実、刑の加重の理由となる前科の存在を証明する場合も同様である。
これに対して、自由な証明とは、厳格な証拠による証明を必要としない場合をいう。たとえば親告罪について有効な告訴があるかどうかというような訴訟法的事実については自由な証明で足りる。
さらに、疎明とは、いちおう確からしいという推測を裁判所に与える程度に証明することをいう。疎明を要する場合は法律に規定されている。たとえば、第1回公判前の証人尋問の請求をするには、検察官は、その証人尋問を必要とする理由、およびそれが犯罪の証明に欠くことができないものであることを疎明しなければならない(同法227条2項)。
[内田一郎・田口守一]
民事訴訟法における証明とは、当事者が裁判の基礎となる事実の存否について、裁判官に確信を抱かせることを目的として、証拠を提出することをいう。裁判官がある事実の証明があったと判断するために必要な具体的確信の程度は、社会の通常人が日常生活上疑いを抱かずに真実であるとして、その判断に従って行動するであろう程度である。確からしいというだけでは不十分である。証拠調べの結果それだけの程度の確信を抱くことができないときは、真否不明として立証責任の問題となる。
[内田武吉]
ある命題に対し、その正当性を示すものを、その命題の証明という。数学的理論における命題の証明とは、その理論の公理系からその命題に至る推論の列のことである。ある命題Pに対し、Pの証明が存在するとき、Pはその理論における「定理」とよばれる。命題Pの証明は、普通、すでに証明されている命題QからPに至る推論の列、という形をとる。QからPに至る推論の列が存在すれば、Qに対しては証明、すなわち、いくつかの公理からQに至る推論の列がすでに存在しているから、これとあわせれば、公理系からPに至る推論の列が得られるわけである。
数学において、ある命題が「正しい」とは、その理論のなかでその命題が成立すること、すなわち、その命題の証明が存在することである。数学の証明における推論は演繹(えんえき)的推論、つまり、普遍的命題から特殊な命題を導く推論であって、つねに成立する推論のみが許される。したがって、数学で「正しい」とされる命題は、つねに成立する命題のみである。
これに対して、自然科学などで用いられる推論には、帰納的推論、つまり、いくつかの特殊な命題から普遍的命題を導く推論が多い。したがって、「太陽は東から昇る」などの命題は、ほとんどおこりえないような確率では、成立しないかもしれないが、一般には「正しい」とされるのである。
数学では、つねに成立する命題が「正しい」とされるのであるから、数学で「正しくない」とは、成立しない場合がありうる、という意味である。したがって、「正しくない」ことを証明するには、その命題が成立しない場合を指摘すれば十分である。この成立しない場合の例を反例とよぶ。たとえば、「nを2以上の自然数とするとき、2n-1の形の自然数は素数である」という命題は正しくないが、それを示すためには、「n=4のとき、2n-1は15であって素数でない」という反例があれば十分なのである。「正しい」とは証明が存在することであったから、「正しくない」とは証明が存在しないことを意味する。反例があれば証明は存在しない。証明が存在するとすれば、それは、反例の存在によって、矛盾するからである。
[廣瀬 健]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これを非供述証拠という。(2)要証事実を直接に証明する証拠を直接証拠といい,それ以外の証拠を間接証拠という。間接証拠によって証明された事実(いわゆる間接事実)は,要証事実を推認する根拠となる。…
※「証明」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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