イタボヤ(その他表記)Botrylloides violaceus

改訂新版 世界大百科事典 「イタボヤ」の意味・わかりやすい解説

イタボヤ
Botrylloides violaceus

尾索綱イタボヤ科の原索動物。小さな個虫がたくさん集まって平らな群体をつくり,石,海藻貝殻などの表面を覆う。日本各地の沿岸でごくふつうに見られる。寒天質状の共同外皮の中に長さ1.2~3.5mmの個体がほぼ垂直にうずまっていて,表面はぬるぬるしている。色はさまざまで橙色,紫褐色,黒紫色などがあり,ときには部分的に緑色になっているものもある。個虫は楕円形で,2列または花びらのような形に並ぶ。個虫の鰓孔(えらあな)列は9~16あるいは10~17ある。近似種にキクイタボヤウスイタボヤ,ムラサキキクボヤなどがある。キクイタボヤBotryllus tuberatusは5~7個の個虫がキクの紋のように並んでおり,鰓孔列は4,ウスイタボヤBotryllus schlosseriはキクイタボヤの個虫と同様な配列であるが鰓孔列が6~10。これらが養殖用のかごや網につくと,目をふさいで海水の出入りをふさぎ害を与える。有用種はない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イタボヤ」の意味・わかりやすい解説

イタボヤ
いたぼや / 板海鞘
[学] Botrylloides violaceus

原索動物門尾索綱壁性目ボトリルス科に属する群体ボヤ。群体は膜状で厚さ3ミリメートル程度。他物を覆って広がり、ときに直径10センチメートルほどになる。共同外皮は柔らかい寒天質で、ほぼ無色透明。外皮にぎっしりと埋まり込む個虫の体色が透けてみえるため、群体は生時、紫褐色あるいは淡褐色を呈する。個虫の体長は約3ミリメートル以内。鰓孔列(さいこうれつ)数は10~11。卵巣精巣の後背方にあり、直径0.1ミリメートル以下の卵を含む。親の体壁が陥入してできた育嚢(いくのう)に入り込んだ排卵直後の卵は、親個虫の退化後も群体の血管系から養分を供給され続け、排卵後約5週間で直径1ミリメートルほどの胚(はい)に成長し、有尾幼生として群体外に泳ぎ出る。着底した幼生は出芽により群体を広げる。日本の沿岸の潮間帯から潮下帯に普通にみられる。群体や成体個虫の構造が本種と区別しにくいボトリロイデス・シモデンシスB. simodensisなどの近似種がある。

[西川輝昭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イタボヤ」の意味・わかりやすい解説

イタボヤ
Botrylloides violaceus

原索動物門尾索亜門ホヤ綱壁性目ボトリルス科。体長 3mm内外の個虫が集り,寒天質の共同外皮で包まれた群体ボヤ。普通紫褐色であるが,色の変化に富む。干潮線下の岩,貝殻の上などにつく。北海道以南に分布する。

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