イマームザーデ(その他表記)imāmzāde

改訂新版 世界大百科事典 「イマームザーデ」の意味・わかりやすい解説

イマームザーデ
imāmzāde

語義的には〈イマーム末裔〉の意味であるが,通常,イマームの子孫もしくはそう信じられた人物を埋葬した,イラン全域に見られる聖祠のこと。シーア派イスラムの,とくに女性にかかわる信仰生活は,イマームザーデあるいはそれと類似の機能をもつピールpīr(聖者祠),あるいはカダムガーqadamgāh(足跡祠),ジヤーラトガー(巡礼祠)などを中心に営まれているといっても過言でない。テヘラン南方郊外のシャー・アブドル・アジーム,シーラーズのシャー・チェラーグのように,広く全土から巡礼者を集める立派な建造物を伴う著名なものから,村外れの墓地に立つ小さなもの,あるいは山腹に単に石を積んだだけのもの(普通ピールと呼称)まで,その形態はさまざまである。今なお,古来の樹木・岩石崇拝ゾロアスター教にさかのぼる拝火・拝水信仰の痕跡を色濃く残しているものも多い。また,特定の起源物語(夢のお告げなど)をもつものもみられる。ここでは,お参り,願掛け,特定日のお籠りなどが行われる。
 →マザール
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イマームザーデ」の意味・わかりやすい解説

イマームザーデ
Imāmzāda

イスラム教シーア派のイマーム (教主) の子孫,および主としてイランに残る彼らをまつった寺院をいい,現在では後者の意味で用いられる。イマームザーデの称号はイマームの息子や孫にだけではなく,神聖さや高潔さにおいて卓越する者,殉教をとげた者にも付される。7世紀末から,アッバース朝カリフ,マームーンが第8代イマーム・レザー Riḍāを後継者に迎えた9世紀初めにかけてイマームの子孫たちがイランに多数移住した。イマーム・レザーの死後彼らは分散し,イラン全土に多くのイマームザーデやその子孫の墓,あるいは彼らの墓と信じられているものが見出される。これらの墓やその上に建てられた寺院が人々の崇敬の対象となり,巡礼の中心地となった。その規模はワクフを有するものから,巡礼者の捧げるものだけで維持されるものまで大小さまざまであるが,イランの民間の宗教生活に果した役割はきわめて大きい。

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