改訂新版 世界大百科事典 「エミーフォンN」の意味・わかりやすい解説
エミー・フォン・N (エミーフォンエヌ)
Emmy von N.
S.フロイトによって,《ヒステリー研究》(1895)中で報告された症例の一つ。エミーは,中部ドイツ出身の40歳になる未亡人であったが,ときおり襲うせん妄状態と夢遊状態,四肢の疼痛や知覚脱失,どもりや舌打ち,蟇(がま)恐怖と雷恐怖などの症状に悩んでいた。フロイトは彼女に対して,友人のJ.ブロイアーがアンナ・Oに行ったと同じ催眠浄化法による治療を行った。約7週間の治療の後,症状は消失したが,やはりヒステリーだった娘の病状を軽視したフロイトに反感を抱いたのを契機に,エミーの症状は再び悪化してしまう。その後彼女は,何人もの医師に催眠療法を受けたが,いつも軽快の後に医師に反感を抱いて再発するパターンを反復した。この経験を通してフロイトは,催眠療法の効果が医師との感情関係により左右される事実についての認識を深め,これが精神分析の新たな方法を樹立するための重要な基礎となった。
執筆者:馬場 謙一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報