改訂新版 世界大百科事典 「アンナO」の意味・わかりやすい解説
アンナ・O (アンナオー)
Anna O
ウィーンの医師ブロイアーJosef Breuer(1842-1925)が,1880年から82年にかけて治療した,当時21歳の女性患者。本名ベルタ・パッペンハイムBertha Pappenheim。彼女の名は,S.フロイトの精神分析療法の創始に関係した古典的ヒステリー患者として,忘れることができない。彼女は父親の看病中に,四肢麻痺や視力障害など多彩な症状を示すようになった。同時にまた,大人の意識状態と幼稚な意識状態を交互に示し,その間に自己催眠状態に陥るのが常であった。ある日彼女はこの催眠状態の中で,たまたま症状の発生当時の状況を物語った。するとその症状が完全に消えてしまったのである。ブロイアーはこれに示唆をえて,催眠状態において過去の外傷体験を想起させ,それとともに鬱積(うつせき)している感情を解放させる方法を考案し,これを〈催眠浄化法〉と名付けた。フロイトは,ブロイアーからこの話を聞いて非常に興味を抱いた。この時の体験が,数年後にフロイトを,当時は仮病だとしてだれにも相手にされなかったヒステリーについての科学的研究に向かわせる端緒になったのである。
→ヒステリー研究
執筆者:馬場 謙一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報