日本大百科全書(ニッポニカ) 「カリドンの猪狩り」の意味・わかりやすい解説
カリドンの猪狩り
かりどんのいのししがり
ギリシア神話のなかに出てくる猪狩りの話。ある年カリドン(ギリシア本土西部の地)の王オイネウスは、収穫祭ですべての神々に初穂を捧(ささ)げたが、アルテミス女神にだけ奉献するのを忘れてしまった。女神はこれを恨み、この地に巨大な野猪(やちょ)を送り込む。猪(いのしし)は人畜を殺し、畑を掘り返し、果樹をなぎ倒し、その被害は甚大であった。そこでオイネウスはギリシア全土から英雄たちを呼び集め、最初に野獣を傷つけた者にその皮を与えると約束する。この狩りに馳(は)せ参じたのは、オイネウスの息子メレアグロスをはじめ、ゼウスの双子の息子カストルとポリデウケス、テセウス、アドメトス、イアソン、イフィクレス、イクシオンの子ペイリトオス、アキレウスの父ペレウス、その兄弟テラモン、女傑アタランテ、アンフィアラオスなど各地の名だたる勇士たちであった。彼らは9日間オイネウス王に歓待されたのち狩り場に向かったが、ある者は猪の牙(きば)にかかり、ある者は仲間の投げた槍(やり)に当たって倒れた。しかしついに、アタランテが、まず猪の背に矢を射込み、続いてアンフィアラオスが目を射、メレアグロスが脇腹(わきばら)にとどめを刺した。メレアグロスは猪の皮をアタランテに与えるが、彼の叔父たちは女に賞をとられることを潔しとせず、その皮を奪ってしまった。そのため激怒したメレアグロスは叔父たちを殺して母の呪(のろ)いを受け、さらに叔父たちの国とメレアグロスの国との間に闘いが引き起こされる。
この物語はホメロスの『イリアス』やバキリデスの『祝勝歌』(第5)にも言及され、しばしば壺絵(つぼえ)などにも描かれている。
[中務哲郎]