日本大百科全書(ニッポニカ) 「イクシオン」の意味・わかりやすい解説
イクシオン
いくしおん
Ixīōn
ギリシア神話に登場するラピテス人の王。彼はディオネウス王の娘ディアに求婚したとき、王に多大な贈り物をするという約束をして結婚を許された。しかし、彼は約束を守らないばかりか、偽ってディオネウス王を竈(かまど)に突き落として焼き殺した。人々は親族殺しという重罪を犯した彼を避け、またその罪を清めてやろうという者も1人もいなかった。これをみて哀れに思ったゼウスは、その罪を清めてやったうえに、彼を天上の食事に招いてネクタル(飲物)とアンブロシア(食物)を味わわせ、不死とした。ところがイクシオンはゼウスの恩を忘れ、その妻であるヘラ女神に思いを寄せ、誘惑を試みた。彼を懲らしめるためにゼウスが雲でヘラ女神の似姿をつくると、イクシオンはこれと交わり、「思いを遂げた」と誇ったため、ついに怒ったゼウスにより冥界(めいかい)のタルタロスへ落とされた。燃える火の車に縛り付けられたイクシオンは、不死身のため、永劫(えいごう)の責め苦を受けなければならなかった。なお、イクシオンが雲と交わったために生まれたのが半人半馬族のケンタウロス(ケンタウロイ)だとされている。
[小川正広]