日本大百科全書(ニッポニカ) 「メレアグロス」の意味・わかりやすい解説
メレアグロス(ギリシア神話の英雄)
めれあぐろす
Meleagros
ギリシア神話の英雄。カリドンの王オイネウス(ディオニソス神から最初に葡萄の樹(オイネ)を与えられた人物ともいう)とアルタイアの子。真の父親はアレス神とも伝えられる。彼が生まれたとき、モイライ(運命の三女神)が現れて、この赤子の寿命はかまどの薪(まき)が焼え尽きるまでと預言する。これを聞いたアルタイアは、かまどからその燃え木を取り出して火を消し、箱にしまい込んだ。やがてたくましく成長した彼は、カリドンの地がアルテミス女神のよこした大猪(おおいのしし)に苦しめられたためその猪狩りに参加する。難儀のすえに猪は退治され、彼は猪に最初に矢を射込んだ女傑アタランテに死んだ猪の皮を与えるが、女に賞をとられることに反対した伯父たちとの間に争いが起こり、彼らを殺してしまう。自分の兄弟たちがわが息子に殺されたことを聞いた母アルタイアは、例の薪を箱から取り出して、燃え盛る火の中に投げ入れた。このためメレアグロスは、別の所にいたにもかかわらずたちまち命を失う。のちに後悔したアルタイアは、英雄の死を嘆くあまり、彼の妻クレオパトラとともにメレアグリス(ホロホロチョウ)に変身した。
この物語は、ホメロスの『イリアス』にすでに語られているメレアグロスの武勇譚(たん)に、生命の指標としての薪や鳥への変身のモチーフが加わってできあがった。なお彼の妹デイアネイラは、英雄ヘラクレスの妻となった。
[中務哲郎]
メレアグロス(古代ギリシアの詩人)
めれあぐろす
Meleagros
生没年未詳。古代ギリシアの詩人。紀元前100年ごろに活躍し、アレクサンドリア時代後期を代表する。カダラの出身で、晩年コス島でアルキロコスからこの時代までのエピグラム選集を編んだという。これに自作130編余りを加えて詩選集『花冠』Stephanosを後世に残し、これが『パラティン詞華集』の中核となる。彼の作品はほとんど恋愛詩で、作風は精妙華麗である。アスクレピアデスなど先人の作品の翻案物も少なくない。美辞麗句に異国風の趣(おもむき)が濃いのは、シリアで生まれ、ギリシア、シリア、フェニキアの三言語を併用した彼の出身を暗示している。
[伊藤照夫]