メレアグロス(英語表記)Meleagros

精選版 日本国語大辞典 「メレアグロス」の意味・読み・例文・類語

メレアグロス

  1. ( [ギリシア語] Meleagros ) ギリシア神話の勇士。カリドンの野猪退治のとき、その功をねたんだおじたちを殺したため、母は怒って神託の薪を燃やし、彼の命を断ったという。

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改訂新版 世界大百科事典 「メレアグロス」の意味・わかりやすい解説

メレアグロス
Meleagros

カリュドンの猪狩り〉で有名なギリシア伝説の英雄。アイトリア地方のカリュドン王オイネウスOineusとアルタイアAlthaiaの子。彼については二様の伝承があり,ホメロスの《イーリアス》には次のように語られている。ある年,オイネウスが収穫を感謝して神々に犠牲を捧げたおり,うっかり女神アルテミスへの分を忘れたため,怒った女神は巨大な猪を遣わして畑を荒らさせた。そこでメレアグロスはギリシア中の勇士を集めて猪狩りを催し,猪退治には成功したが,獲物分配がこじれてカリュドン人とアルタイアの里方のクレテス人の間に戦いがもちあがった。この戦いでメレアグロスがアルタイアの兄弟を討ちとると,彼女は息子に呪いをかけたため,彼は憤慨して家に引きこもり,戦況はカリュドン側に不利に傾いた。こうして町が陥落寸前となったとき,メレアグロスはようやく周囲の人々の懇願を聞き入れて再び武器をとり,かろうじてカリュドンを救ったという。

 これに対して,オウィディウスの《転身物語》に代表される後代の伝承はこうである。メレアグロスが生まれて7日目の夜,運命の三女神(モイラ)が現れて炉に1本の丸木を投げこみ,赤児の寿命はこの木が燃えつきるまでと言い残して姿を消した。そこでアルタイアは急いでその木を拾い上げて火を消し,箱の中にしまっておいた。後年,猪狩りが催されたとき,猪はメレアグロスがしとめたが,彼はその皮を狩りに参加していた美女アタランテに与えたところ,アルタイアの兄弟たちがこれを奪おうとしたため,メレアグロスは彼らを殺した。その屍を見たアルタイアは逆上してかつての丸木を火に投じると,にわかにメレアグロスは落命し,アルタイアもすぐに後悔して自刃した。またメレアグロスの死を嘆く姉妹たちは,アルテミスによってほろほろ鳥(メレアグリス)に変じられたという。彼はまたアルゴ船遠征アルゴナウタイ伝説)に参加した勇士のひとりに数えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「メレアグロス」の意味・わかりやすい解説

メレアグロス(ギリシア神話の英雄)
めれあぐろす
Meleagros

ギリシア神話の英雄。カリドンの王オイネウス(ディオニソス神から最初に葡萄の樹(オイネ)を与えられた人物ともいう)とアルタイアの子。真の父親はアレス神とも伝えられる。彼が生まれたとき、モイライ(運命の三女神)が現れて、この赤子の寿命はかまどの薪(まき)が焼え尽きるまでと預言する。これを聞いたアルタイアは、かまどからその燃え木を取り出して火を消し、箱にしまい込んだ。やがてたくましく成長した彼は、カリドンの地がアルテミス女神のよこした大猪(おおいのしし)に苦しめられたためその猪狩りに参加する。難儀のすえに猪は退治され、彼は猪に最初に矢を射込んだ女傑アタランテに死んだ猪の皮を与えるが、女に賞をとられることに反対した伯父たちとの間に争いが起こり、彼らを殺してしまう。自分の兄弟たちがわが息子に殺されたことを聞いた母アルタイアは、例の薪を箱から取り出して、燃え盛る火の中に投げ入れた。このためメレアグロスは、別の所にいたにもかかわらずたちまち命を失う。のちに後悔したアルタイアは、英雄の死を嘆くあまり、彼の妻クレオパトラとともにメレアグリス(ホロホロチョウ)に変身した。

 この物語は、ホメロスの『イリアス』にすでに語られているメレアグロスの武勇譚(たん)に、生命の指標としての薪や鳥への変身のモチーフが加わってできあがった。なお彼の妹デイアネイラは、英雄ヘラクレスの妻となった。

[中務哲郎]


メレアグロス(古代ギリシアの詩人)
めれあぐろす
Meleagros

生没年未詳。古代ギリシアの詩人。紀元前100年ごろに活躍し、アレクサンドリア時代後期を代表する。カダラの出身で、晩年コス島でアルキロコスからこの時代までのエピグラム選集を編んだという。これに自作130編余りを加えて詩選集『花冠』Stephanosを後世に残し、これが『パラティン詞華集』の中核となる。彼の作品はほとんど恋愛詩で、作風は精妙華麗である。アスクレピアデスなど先人の作品の翻案物も少なくない。美辞麗句に異国風の趣(おもむき)が濃いのは、シリアで生まれ、ギリシア、シリア、フェニキアの三言語を併用した彼の出身を暗示している。

[伊藤照夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メレアグロス」の意味・わかりやすい解説

メレアグロス
Meleagros

ギリシア神話の英雄。カリュドン王オイネウスとアルタイアの子。誕生して7日後に,母の前に現れたモイライによって,炉の中の薪が燃尽きるまでしか生きられないと予言されたため,アルタイアはすぐその薪を取出して火を消し,大切にしまっておいた。ところが,女神アルテミスの怒りによって放たれた国を荒すいのししを退治するため,ギリシア中の英雄を集め,有名な「カリュドンの猪狩」を催したメレアグロスは,この狩りに女性の身でただ1人だけ参加したアタランテに恋心を抱き,彼女が最初に矢傷を負わせたあと,彼がみずからの手で仕留めたいのししの毛皮と頭とをアタランテに与えたことから,これを不服とする母アルタイアの兄弟たちと争い,ついに伯父たちを殺してしまった。これを聞いて怒った母は,薪を取出して燃やしたため,メレアグロスは絶命し,のちに後悔した母も息子のあとを追って自害したという。

メレアグロス
Meleagros

[生]前140頃.シリア,ガダラ
[没]前70頃
古代ギリシアのエピグラム詩人,キュニコス派哲学者。 47人の詩人のエピグラムを集めてギリシア最初の詩選集『花冠』 Stephanosを編み,これがのちの『ギリシア詞華集』の母体となった。愛を歌った彼自身のエピグラム 130編も後者に収録されて伝えられている。彼のメニッポス風サトゥラは失われた。

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百科事典マイペディア 「メレアグロス」の意味・わかりやすい解説

メレアグロス

ギリシア伝説でカリュドン王オイネウスの子。巨大な猪が国土を荒らすので狩りを催した。彼が猪にとどめをさしたが,女狩人アタランテに賞品を与えたのをからかわれて,母の弟2人を殺す。母は怒り,メレアグロスの命の棒杭を火中に投じたので,それが燃えつきるとともに彼は死んだという。ホメロス《イーリアス》には別伝もある。

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世界大百科事典(旧版)内のメレアグロスの言及

【ギリシア詞華集】より

… 《パラティナ詞華集》はビザンティン時代ににわかに成立したものではなく,実は前1世紀以来,数次にわたるエレゲイア詩集編纂の成果を踏まえていることが,内容分析から明らかとなっている。前70年ころのメレアグロスMeleagros編の《冠》,前40年ころのフィリッポスPhilipposが〈ヘリコンの花を摘み編んだ〉という,やはり同名の《冠》詩集,後6世紀中葉アガティアスAgathiasがコンスタンティノープルで集成した《環》と題するエピグラム集,そしてさらに9世紀コンスタンティノス・ケファラスKōnstantinos Kephalasによって再編集された大詞華集が生まれ,これが《パラティナ詞華集》の祖本となったのである。詞華集に収められた古典期,ヘレニズム期の大詩人たちのエピグラムは,ルネサンス期以降の西欧の詩人たちの範と仰がれ,甚大な影響を及ぼしている。…

【アタランテ】より

…生まれたとき,女児を欲しなかった父親によって山中に捨てられ,女神アルテミスの聖獣たる牝熊に育てられた。成人後,有名な狩人となった彼女は,カリュドンの猪狩りに参加,猪に最初の矢を射こんでカリュドンの王子メレアグロスからほうびにその皮を贈られた。その後,両親に再会すると父は彼女を結婚させようとしたが,以前から処女をまもることを誓っていた彼女は,求婚者たちに自分と競走して勝つことを求めた。…

【ギリシア詞華集】より

… 《パラティナ詞華集》はビザンティン時代ににわかに成立したものではなく,実は前1世紀以来,数次にわたるエレゲイア詩集編纂の成果を踏まえていることが,内容分析から明らかとなっている。前70年ころのメレアグロスMeleagros編の《冠》,前40年ころのフィリッポスPhilipposが〈ヘリコンの花を摘み編んだ〉という,やはり同名の《冠》詩集,後6世紀中葉アガティアスAgathiasがコンスタンティノープルで集成した《環》と題するエピグラム集,そしてさらに9世紀コンスタンティノス・ケファラスKōnstantinos Kephalasによって再編集された大詞華集が生まれ,これが《パラティナ詞華集》の祖本となったのである。詞華集に収められた古典期,ヘレニズム期の大詩人たちのエピグラムは,ルネサンス期以降の西欧の詩人たちの範と仰がれ,甚大な影響を及ぼしている。…

【コハク(琥珀)】より

…ギリシア人がコハクをエレクトロン(〈太陽の石〉の意)と呼んだのは,この神話と関係があるかもしれない。同じような神話には,メレアグロスの死を嘆いて,アルテミスにホロホロチョウに変えられた彼の姉妹たちの涙が,やはりコハクになったというのがある。また別の伝承では,アポロンがオリュンポス山を追放されてヒュペルボレオイの地へ行ったとき,コハクの涙をこぼしたともいう。…

※「メレアグロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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