日本大百科全書(ニッポニカ) 「バキリデス」の意味・わかりやすい解説
バキリデス
ばきりです
Bakchylides
(前520ころ―?)
古代ギリシアの叙情詩人。エーゲ海のケオス島の出身。シモニデスの甥(おい)。詩人の叔父から作詩を学び、テッサリア、マケドニアの貴族のために頌歌(しょうか)をつくり、またディティランボス(合唱隊歌)の競演に参加した。紀元前476年、シチリアのシラクサの僭主(せんしゅ)ヒエロンがオリンピア祭の競馬で優勝したとき、これを祝う歌をつくった。このころ彼は叔父とともにヒエロンに招かれてシラクサに滞在した。さらにこの僭主のため、前470年のピュティア祭の競馬、前468年のオリンピア祭の戦車競走における優勝を記念する歌をつくった。また、同様にヒエロンのため祝勝歌を作詩したピンダロスと技を競い合ったが、ピンダロスはあるオリンピア競技の祝勝歌のなかで、自らをゼウスに仕える鷲(わし)に、競争相手をいたずらにわめく烏(からす)にたとえている。彼はさらに賛歌、行列歌、乙女歌、舞踏歌などをつくったが、近年パピルスで発見された若干の競技祝勝歌とディティランボスを除き、ほとんどが失われた。彼は古来しばしばピンダロスと比較され、深みが欠けるといわれるが、その洗練された言語は独特の荘重な響きをもち、神話、英雄伝説の叙述は明快で印象的である。
[岡 道男]
『高津春繁訳『バッキュリデース詩集』(『世界名詩大成1』所収・1962・平凡社)』