イアソン(読み)いあそん(英語表記)Iāsōn

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イアソン」の意味・わかりやすい解説

イアソン
いあそん
Iāsōn

ギリシア神話の英雄。アルゴ船物語の主人公。テッサリアの大都イオルコスの王である父アイソンは、異父兄弟ペリアスによって王座を追われたが、1子イアソンにまで迫害の及ぶことを恐れ、ケンタウロス族の賢者ケイロンに息子を預けた。やがて成人したイアソンは、王位継承権を要求するためペリアスの所へ向かうが、その途中、卑しい老婆に変装したヘラ女神に会って、川の向こう岸に渡してやる際、片方のサンダルを失う。一方、以前片足サンダルの男に破滅させられるであろうとの神託を受けていたペリアスは、イアソンを亡き者にしようと企て、金の羊毛皮をコルキスの地から奪ってくるよう命じた。イアソンはギリシア中の英雄、豪傑を集めてアルゴ船に乗り組み、苦難のすえ黒海のかなたのコルキスに着いた。そしてアイエテス王から、口から火を吐く牡牛(おうし)で畑を耕し、竜の牙(きば)を播(ま)くという難題を課せられるが、彼に恋した王女メデイアの助けで無事にこれを果たし、金の羊毛皮を手に入れて、妻となったメデイアとともに帰国する。

 しかし、メデイアの魔術によってペリアスを殺害したため祖国を追われた2人は、コリントスに逃れた。そののちイアソンは、メデイアを捨ててコリントス王の婿となったが、怒り狂ったメデイアはイアソンとの間にもうけた2子を虐殺花嫁をも魔薬で殺した。そして、イアソンはアルゴ船の朽ちた船材頭上に受けて死んだともいわれる。

 イアソンの物語は、ピンダロス(前522/518―前442/438)の『ピティア第四歌』、またロドスのアポロニオス(前295ころ―?)の『アルゴナウティカ』などに詳しい。

[中務哲郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イアソン」の意味・わかりやすい解説

イアソン
Iason

アルゴ船の遠征を主宰したギリシア神話の英雄。アイソンの息子。ケンタウロスのケイロンに養育されたが,成人すると故郷のイオルコスに帰り,父の王位を簒奪していた叔父ペリアスに王位の返還を要求したところ,ペリアスからコルキスのアイエテス王のところにある金毛羊皮を取戻してくることを求められた。ヘラとアテナ両女神の助けによってアルゴ船を建造したイアソンは,この船に,アルゴナウタイと呼ばれるギリシア各地から集った英雄たちとともに乗組み,途中多くの冒険にあいながらダーダネルス海峡を越え,黒海の奥のコルキスまで航海し,彼に恋したアイエテスの娘の魔女メデイアの助けを得て首尾よく金毛羊皮を手に入れ,妻となったメデイアを連れ無事帰国すると,メデイアの魔法の力をかりてペリアスをだまし,その娘たちの手で釜ゆでにして殺させた。このあとイオルコスから追放されたイアソンは,メデイアとともにコリントに亡命し,2人の子をもうけたが,心変りしてコリントの王女クレウサと結婚しようとしたため,怒ったメデイアは毒を塗った衣をクレウサに贈り,彼女を横死させたうえ,わが子たちまで殺し,空を飛ぶ車に乗ってアテネに逃れた。イアソンはこのあと,ペリアスの子アカストスの手からイオルコスの王位を奪還したが,最後にはアルゴ船の船首につぶされて死んだという。

イアソン[フェライ]
Iasōn of Pherai

[生]? フェライ
[没]前369. デルフォイ
古代ギリシア,テッサリアの都市フェライの僭主。全テッサリア制覇を目指し,前 374年最後の都市ファルサロスに勝って目的を達成。戦時最高司令官 (タゴス) に選ばれ,諸都市の制度を新しくするとともに北部ギリシアに勢力を伸張。アテネ,テーベと結んでスパルタに対したが,自己の精鋭部隊の使用を拒んで調停に尽力。前 370年ピュチア競技会で全テッサリア軍を動員し,他のギリシア諸市を驚かせたが,暗殺され,彼の行動は謎となった。

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