改訂新版 世界大百科事典 の解説
キャビネット・ペインティング
cabinet painting
Kunstkammerstück[ドイツ]
ヨーロッパでマニエリスムからバロックにかけて,工芸品,宝石,古銭,動植物標本等と共に収集家の収集室(キャビネットcabinet)に飾られた小絵画。神話,風俗,寓意(アレゴリー),風景,静物等主題は多岐にわたるが,いずれも精緻で装飾的な工芸品的性格を特色とする。ドイツ出身で1600年前後にイタリアで活躍したロッテンハンマーHans Rottenhammer(1564-1625)およびエルスハイマー,同時期のフランドルのヤン・ブリューゲルやフランケンFrans Francken II(1581-1642)が代表的な画家である。
17世紀にはいると,とりわけフランドルにおいて,この分野から収集室そのものを描いた画種が派生する。収集は架空,実在いずれの場合もあるが,画中画は概して現実の作品の正確な縮小図であり,失われた作品の手がかりとしても役に立つ。前記のブリューゲル,フランケンのほかに,ファン・ハーヒトWillem van Haecht(1593-1623),テニールスなどがこの画種を手がけている。
執筆者:高橋 裕子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報