改訂新版 世界大百科事典 「ギルバート法」の意味・わかりやすい解説
ギルバート法 (ギルバートほう)
Gilbert's Act
18世紀末のイギリス経済の長期にわたる好況,小麦価格の安定,労働者階級の生活水準の上昇という社会的な状況を背景とする,いわゆるイギリス救貧法の〈人道主義化〉を確認した1782年法の一般的呼称。提案者であるギルバートThomas Gilbert(1720-98)の名に由来する。この法は,教区連合をつくることによって行政区を拡大し,貧民行政の合理化と貧民処遇の改善を目的としていた。そのために労役場workhouseを老人・病人・孤児など労働能力のない貧民の救済施設と規定し,労働の意思と能力のある貧民については,原則として居宅で救済を行った。彼らに対しては,まず救済委員が仕事の斡旋を行い,仕事がみつからない場合には,その間保護を与えた。また就労していても収入が生活費に不足する者には,不足分を救貧税から補充するという手当制度allowance systemを採用した。労役場による救援の抑制を放棄し,有能貧民に職業の斡旋をするというこの考え方は,失業が本人の意思とは関係なく生ずることを認めたものであり,1601年法以来の伝統的な貧民観に大きな変更を加えるものであった。だが教区連合については農村地主層の反対によって,目的を達成することはできなかった。しかしながら,生活費の不足分を公的に補充するというギルバート法の基本的な考え方は,後のスピーナムランド制度も含めて,今日の公的扶助の原型となったともいえる。
→救貧制度
執筆者:岡本 多喜子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報