改訂新版 世界大百科事典
「グルントヘルシャフト」の意味・わかりやすい解説
グルントヘルシャフト
Grundherrschaft
19世紀以来,ドイツの歴史研究者が,中世における領主の農民支配を把握するための整序概念として用いてきた学術用語。その内容についてはさまざまな理解があり,一義的な概念規定をすることはできない。経済史の側では,ほぼこの概念は領主的土地所有とそれに基づく借地農民の収奪の仕組みであると理解され,それが例えば,初期中世の修道院領のように,賦役労働による領主直営地経営(ビリカチオン制)を伴う場合には,とくに〈古典的〉グルントヘルシャフトと呼んで後代の地代荘園型グルントヘルシャフトと区別される。また国制史の側では,しばしばこの概念は聖俗領主の〈支配〉体制そのものを表すのに用いられ(例えばオットー・ブルンナー),この場合には,それは単なる当該領主の所領組織ではなく,それを一つの基礎としつつもより包括的な社会・政治的支配構成体=領主支配圏(ヘルシャフト)を意味するものと考えられている。
→グーツヘルシャフト →領主制
執筆者:山田 欣吾
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グルントヘルシャフト
Grundherrschaft
(1) 広義には荘園,すなわち封建的土地所有形態のことで,イギリスのマナーとほぼ同義である。しかし,マナーが封建領主の所領の一単位を意味するのに対して,グルントヘルシャフトは後年になってつくられた学術用語で,中世の封建的土地所有および領主的支配関係を基礎とした一つの社会制度の意味をもつ。 (2) 狭義に解する場合はグーツヘルシャフトに対比して,12~14世紀のドイツにおける土地支配を基盤とした領主対農民の関係をさす。グルントヘルシャフトは本来,領主による上級所有権に基づいて土地保有農民に対する行政・裁判権を含んでいたが,中世後期以降,農民経営の自立化に伴い,次第に農民への人身支配は弱まり,単なる貢租徴収機構へと変質していった。
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「グルントヘルシャフト」の意味・わかりやすい解説
グルントヘルシャフト
荘園とも訳す。19世紀以来ドイツの歴史家の用いてきた学術用語。中世封建社会における領主の土地支配権,土地支配に基づく借地農民の収奪の仕組みであるが,より包括的にその支配体制そのものを指すこともある。→荘園/領主制/グーツヘルシャフト
→関連項目マナー
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世界大百科事典(旧版)内のグルントヘルシャフトの言及
【荘園】より
…官荘は生産性や作物の種類で差等がつき,永小作権をもつ荘頭が,直接耕作者である壮丁から租米を徴収し,中間利潤をとる形式で経営された。【梅原 郁】
【ヨーロッパ】
ヨーロッパ中世の農村における領主による在地的支配の場は[マナー](イギリス),セニュリseigneurie,ドメンdomaine(フランス),[グルントヘルシャフト](ドイツ)などとよばれ,日本では荘園(ないし所領)と訳される。しかし領主的支配そのものが,領民の人身そのものを把握する場合,土地所有の独占による場合,裁判権を槓杆(こうかん)として領域性を強く示す場合など,きわめて多様であるため,荘園の内容と範囲のとらえ方も一様ではない。…
【封建制度】より
…(b)この意味での封建制度は,世界中どこにもみられる普遍的現象である。(c)ヨーロッパの学界では,この意味では[領主制],[マナー],[グルントヘルシャフト],セニュリseigneurieの語(いずれも日本では〈荘園(制)〉と訳されているが,日本の荘園と同一視できるかは問題である)が用いられ,フューダリズムの語は用いられないのが通例である。(d)時代的には,この意味の封建制度は,奴隷制の崩壊から近代市民社会の成立までの全時期を包括するが,レーン制の意味での封建制度は,8~9世紀から13世紀までみられるにすぎない。…
※「グルントヘルシャフト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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