グーツヘルシャフト(読み)ぐーつへるしゃふと(英語表記)Gutsherrschaft ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グーツヘルシャフト」の意味・わかりやすい解説

グーツヘルシャフト
ぐーつへるしゃふと
Gutsherrschaft ドイツ語

15、16世紀以降エルベ川以東の東部ドイツに発達した領主制の特殊形態。広大な領主農場の存在と領主(グーツヘル)によるその直接経営、村落農民に対する領主の排他的支配を特徴とする。領主は自己の農場を農民の賦役労働によって経営し、市場向けの農業生産を行ったが、農民に対する領主の支配はきわめて強固かつ封建的で、農民は土地を与えられてはいたが領主の許可なしには土地を離れられず、職業選択や結婚の自由もなく、またその子女僕婢(ぼくひ)として領主のもとで働く義務を負っていた。反面、領主には農民を保護する義務があったが、世襲的に領主に隷属する農民は、その土地保有権にも十分な保障がなく、つねに領主による土地収奪の危険にさらされていた。このような領主―農民関係は、土地領主権のみならず、他のさまざまの支配=保護権(裁判権、警察権、また村長任命権や教会保護権)を領主が一手に掌握したことにより実現され、かつ維持されたものであり、したがってグーツヘルシャフトは、それ自体小規模ながら「国家内の国家」ともいうべき完結した支配領域を形づくっていた。18世紀以降、国家の農民保護政策が領主の支配に制限を加え、また農業労働者による資本主義的農業経営が広まるにつれて、旧来の領主―農民関係は変質を迫られる。そして19世紀の農民解放立法によって、グーツヘルシャフトは解体過程に入るのである。

[坂井榮八郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グーツヘルシャフト」の意味・わかりやすい解説

グーツヘルシャフト
Gutsherrschaft

農場領主制と訳される。 15~16世紀以降,典型的にはエルベ川以東のドイツに成立した土地所有の形態。領主が広大な直営地 Gutを所有し,領民である農民の賦役労働によって経営しつつ,農民のうえに強い支配を確立する。その特色は領主が市場向けの穀物生産を行い,商業利潤の獲得を目指す点にある。農民の領主に対する隷属関係は,土地緊縛や,農民がその子弟を下僕として領主に差出す義務,その他を内容としていた。 18世紀以来賃金農業労働者にも用いられ,19世紀初頭プロシア改革により,農奴制に立脚する農業経営としてのグーツヘルシャフトは消滅するが,農場主たる貴族 (ユンカー) の社会的,政治的な特権はその後も長く維持された。

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