改訂新版 世界大百科事典 「ケトージス」の意味・わかりやすい解説
ケトージス
ketosis
ケトン体(アセト酢酸,β-オキシ酪酸,アセトン)が体内に蓄積された状態をいう。基本的には糖質利用が悪く,相対的に脂肪分解が促進されてアセチルCoAが増加し,肝臓におけるケトン体産生が過剰となる。ふつうケトン体は肝臓以外の組織に運ばれてエネルギー源として利用されるが,酸性であるため大量に存在するとアシドーシスを生じ,尿中へも排出される(ケトン尿症)。ケトージスは糖尿病,飢餓(嘔吐,食欲不振),糖原病(ギールケ病)などで招来されるが,とくにインシュリン欠乏を伴う糖尿病では典型的に糖質,脂肪,タンパク質の利用低下があり,浸透圧利尿による脱水,ケトン体による陽イオン排出のための血清電解質異常(ナトリウム低下やCO2の減少など)を生じる。このような状態ではコルチゾールやグルカゴンも増加してケトージスを促進し,血液pHの低下も著明となれば昏睡となる。この際クスマウル大呼吸を呈する。治療は脱水・電解質の是正とインシュリンの投与による。
執筆者:河津 捷二
家畜のケトージス
ヒツジとウシではヒトと同様,体内でケトン体が異常に増量してケトージスが起こる。ウシのケトージスは分娩後1ヵ月以内で泌乳量が最盛期になると,高能力牛または分娩時に太り過ぎた状態の乳牛で多発し,乳量の著しい低下や,痙攣(けいれん),昏睡ののち死に至る。一方,低栄養をもたらす第四胃変位,感染などの食欲減退や,酪酸発酵サイレージの多給でも発症する(二次性ケトージス)。ヒツジでは双胎または多胎の妊娠の末期に発症する。ケトージス牛では血中ケトン体が30~100mg/dlに増加し,尿中ケトン体は80~1300mg/dlにも増加する。ケトージスの治療は20~40%のブドウ糖液を1日500~1000mlの点滴静注が効果的であり,また糖の前駆体(プロピオン酸ナトリウム,プロピレングリコール)の内服もよい。
執筆者:本好 茂一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報