ケトン体(読み)けとんたい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケトン体」の意味・わかりやすい解説

ケトン体
けとんたい

アセト酢酸およびこれから生ずるD-3-ヒドロキシ酪酸アセトンの総称で、アセトン体ともいう。脂肪酸ピルビン酸の酸化による過剰のアセチル補酵素Aをアセト酢酸やD-3-ヒドロキシ酪酸に変える酵素系により、ケトン体が肝臓で生成される。肝臓ではケトン体が利用されないため、血液中に放出されて末梢(まっしょう)組織に運ばれ、TCA回路で酸化される。アセトンはアセト酢酸の非酵素的脱炭酸によって生じ、肺から呼気中へ排出される。正常の場合は血液中のケトン体濃度は低く、アセトンに換算して100ミリリットル中1ミリグラム、尿中への排出量はヒトで1日当り20ミリグラム程度であるが、飢餓あるいは糖尿病のときのように、糖分の摂取不足あるいは糖の消費が激しくて脂肪の分解が亢進(こうしん)している場合には、ケトン体の血液中濃度と尿への排出量が100倍近く増加する。このような状態をそれぞれケトーシスおよびケトン尿症という。また、アセト酢酸およびD-3-ヒドロキシ酪酸が酸性であるので血液が酸性に傾き、アシドーシス(酸血症)となって意識障害や不整脈などの症状が現れる。

[飯島康輝]

『Jiro Kaneko著、久保周一郎・友田勇監訳『獣医臨床生化学』(1991・近代出版)』『須田俊宏編著『糖尿病診療の実際』(2000・永井書店)』『鈴木吉彦著『糖尿病ガイド』(2001・南江堂)』『A・L・レーニンジャー、D・L・ネルソン、M・M・コックス著、山科郁男監修、川嵜敏祐編『レーニンジャーの新生化学』第3版(2002・廣川書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ケトン体」の意味・わかりやすい解説

ケトン体 (ケトンたい)
ketone body

アセト酢酸,D-3-ヒドロキシ酪酸およびアセトンの三つを総称してケトン体またはアセトン体acetone bodyという。脂肪酸酸化により生じたアセチルCoA通常は主としてクエン酸回路に入って酸化されるが,それにはオキサロ酢酸の十分な供給が必要である。脂肪酸の分解が高まったり,糖質の不足や利用障害が起こると,オキサロ酢酸濃度が低下してアセチルCoAはクエン酸回路に入りにくくなり,過剰のアセチルCoAからアセト酢酸が合成される。アセト酢酸はミトコンドリアの還元酵素の作用によりD-3-ヒドロキシ酪酸に,また自然に脱炭酸されて酢酸が生じる。アセト酢酸とD-3-ヒドロキシ酪酸とは主として肝臓で生成されて血中に放出される。血中にこれらのケトン体の濃度が高まった状態はケトン血症と呼ばれ,ケトン体が尿中に排出されるときケトン尿となる。血中のケトン体は飢餓時に上昇し,これらは心筋,腎臓をはじめとした末梢組織で重要なエネルギー源として利用される。脳の主要なエネルギー源はブドウ糖であるが,飢餓が長期に及ぶとやはりケトン体を利用するようになる。インシュリン不足の糖尿病は飢餓時の代謝と類似な点が多く,血糖のコントロールが不良な糖尿病ではケトン血症が起こりやすい。インシュリンは強い抗脂肪分解作用をもつホルモンであり,このホルモンが減少すると末梢での脂肪分解が促進され,多量の脂肪酸が動員されて肝臓に流れこむようになる。ケトン血症が強くなると血液のpHは酸性に傾いてアシドーシスになりやすい。
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化学辞典 第2版 「ケトン体」の解説

ケトン体
ケトンタイ
ketone bodies

主として脂肪酸の不完全酸化の結果生じるアセト酢酸アセトン,3-ヒドロキシ酪酸の総称.一次的に生じるのはアセト酢酸で,アセトンはその脱炭酸により,また3-ヒドロキシ酪酸は脱水素酵素による還元によって生じる.糖質の供給または代謝がなんらかの原因で制限された場合,かわりに脂肪およびケトン体を生成するアミノ酸の代謝が盛んになり,肝臓にアセト酢酸が蓄積する結果,一部が尿中に排出される.糖尿病などの異常状態ではとくにケトン体の蓄積がいちじるしい.

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百科事典マイペディア 「ケトン体」の意味・わかりやすい解説

ケトン体【ケトンたい】

アセト酢酸およびこれから生ずるD−3−ヒドロキシン酢酸やアセトンの総称。アセトン体とも。肝臓で生成されるケトン体は血液中に排出されるが,血液中のケトン体濃度が高い状態をケトン血症,尿中のケトン体濃度が高い状態をケトン尿症という。血糖のコントロールが不良な糖尿病ではケトン血症が起こりやすい。ケトン血症が強くなると血液のpHは酸性に傾きアシドーシスになりやすい。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケトン体」の意味・わかりやすい解説

ケトン体
ケトンたい
ketone body

アセトン体ともいう。異常代謝により生体内に蓄積されるケトン類の総称で,アセトン,アセト酢酸,β-ヒドロキシ酪酸から成る。糖尿病では,インスリンの欠乏の結果組織内ブドウ糖が低下して,肝臓におけるケトン体産生が増加し,多量のケトン体が血中に生じ,アシドーシスを起して重症のときは昏睡に陥る。

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栄養・生化学辞典 「ケトン体」の解説

ケトン体

 アセトン体ともいう.アセト酢酸,β-ヒドロキシ酪酸,アセトンの総称.生理的には前二者が重要.絶食時や進行した糖尿病の場合に主に脂肪酸が代謝されて生成する.脳,その他の組織のエネルギー源になる.ケト原性アミノ酸(リシン,ロイシン,チロシン,フェニルアラニン)の代謝によっても生成する.

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妊娠・子育て用語辞典 「ケトン体」の解説

けとんたい【ケトン体】

体内の脂肪が分解されてできる産物で、尿中に排出されます。通常は尿を調べても「マイナス」、つまり出ないわけですが、脱水などが起こると「プラス」になります。妊娠中、プラスになるようなら、つわり症状がひどく脱水や栄養障害が起こっている、つまり「妊娠悪阻(にんしんおそ)」の可能性があります。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のケトン体の言及

【肝臓】より

…トリグリセリドは,また血中の脂肪酸が実質細胞内でエステル化されて合成される。しかし,飢餓時のように血中の脂肪酸量が著しく高くなっている場合には,エステル化は抑制されケトン体を生ずる。一方,消化管内で消化されたタンパク質は,アミノ酸として吸収され,門脈系を介して実質細胞へ運ばれ,タンパク質合成に用いられるほか,代謝されて尿素に合成される。…

【ケトージス】より

ケトン体(アセト酢酸,β‐オキシ酪酸,アセトン)が体内に蓄積された状態をいう。基本的には糖質利用が悪く,相対的に脂肪分解が促進されてアセチルCoAが増加し,肝臓におけるケトン体産生が過剰となる。…

※「ケトン体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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