改訂新版 世界大百科事典 「アセト酢酸」の意味・わかりやすい解説
アセト酢酸 (アセトさくさん)
acetoacetic acid
β-ケト酸の一種。化学式CH3COCH2COOH,融点36~37℃の固体で水に溶ける。熱に対して不安定で,容易に脱炭酸してアセトンとなる。塩化鉄(Ⅲ)により赤紫色を呈する。合成法は,アセト酢酸エステルを低温でアルカリ加水分解する。非常に不安定なため,実験室で使われる機会は少ないが,生体内では重要な役目を果たしている。脂肪酸の酸化代謝過程でアセト酢酸が生成する。この代謝前駆体であるアセチルCoAがクエン酸回路に向かって正常に代謝されないと,アセト酢酸の生成が増え,分解生成物であるアセトンあるいは3-ヒドロキシ酪酸が蓄積される。これら異常代謝生成物は糖尿病患者の尿中に見いだされる。
アセト酢酸エチルethyl acetoacetate
アセト酢酸のエチルエステルCH3COCH2COOC2H5で,安定なためアセト酢酸よりもずっと広い用途がある。果実様の芳香を有する無色の液体で,沸点180.4℃。酢酸エチルに,金属ナトリウム,ナトリウムエトキシドなどの塩基を作用させることにより合成される(クライゼン縮合)。二つのカルボニル基にはさまれた活性メチレン基が存在するため,ケト-エノールの互変異性体がある。
室温の純物質中でエノール形は7%程度を占め,大部分はケト形である。塩化鉄(Ⅲ)で紫色を呈するのはエノール形の存在による。これら互変異性体を別個に単離することも可能である。エチルアルコール中ナトリウムと反応して生成するエノラート陰イオンにハロゲン化アルキルを作用させると,活性メチレンのアルキル化が起こる(アセト酢酸エステル合成)。
得られたアルキル置換体を希酸または希アルカリで加水分解し,加熱すると脱炭酸が起こって,アルキル置換アセトンCH3CORR′Hが生成する(ケトン分解)。一方,濃いアルカリを作用させると酢酸とカルボン酸CHRR′COOHの塩がそれぞれ生成する(酸分解)。
執筆者:小林 啓二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報