日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセト酢酸」の意味・わかりやすい解説
アセト酢酸
あせとさくさん
融点37℃の不安定な液状の酸。化学式CH3COCH2COOHで、長く放置しておいたり、熱したりすると、アセトンと炭酸ガスに分解する。糖尿病患者の血液中には、アセト酢酸が多く、尿中にも排出されてくる。生体内では、2分子のアセチル補酵素Aから、1分子のアセト酢酸が生成される。アセト酢酸からさらにβ(ベータ)-オキシ酪酸およびアセトンが生ずる。これらの物質を総称してケトン体とよぶ。ケトン体は肝臓で産生されるが、代謝はされず、そのまま循環血中に放出される。肝臓以外の組織では、サクシニル補酵素Aから、補酵素Aをアセト酢酸へ転移させて、「活性アセト酢酸」にしたのち、これをクエン酸回路によって炭酸ガスと水に代謝してしまう。飢餓、糖尿病、高脂肪食などで、熱量供給のほとんどが脂肪によって賄われるときには、脂肪を炭水化物に変える主要な代謝経路が生体に存在しないため、炭水化物欠乏症となる。このようなとき、炭水化物にかわるエネルギー源としての脂肪の代謝が著しく増強され、大量のアセチル補酵素Aが生ずる。これがアセト酢酸を形成し、生体内で酸化しきれないほど増すと、ケトン体が血中に蓄積してくるが、これをケトーシスという。糖尿病患者にロイシンやチロシンなどのアミノ酸を投与した際にもアセト酢酸の排出が増す。また、動物にフロリジンという糖の吸収を抑制するグリコシドを注射すると、これと同様の現象がみられる。
[飯島康輝]