改訂新版 世界大百科事典 「ゴリュトス」の意味・わかりやすい解説
ゴリュトス
gōrytos
古代北アジアの遊牧民が用いた短弓と弓とを収納するケースのギリシア語名。ゴリトスとも呼ぶ。皮革製であったらしく,腐朽して遺存しないが,表面を覆った金銀製打出し文の飾板が遺存する場合が多く,とくに黒海北岸のスキタイの墳墓からしばしば出土する。とくに有名なのはウクライナのニコポリ近郊のチェルトムリク・クルガンから発見されたゴリュトスの黄金飾板で,アキレウスの生涯の物語を打ち出したみごとな作品(前4世紀)である。これまで,他のスキタイ墳墓からこれと同型の品が3点発見されており,おそらく黒海北岸のボスポロス王国かトラキアの工匠の作品とみられる。スキタイはこれらのゴリュトスを左腰に下げていたらしい。同様の遺品は,ギリシア北部ベルギナのマケドニア王陵や西シベリアからも出土しており,中央アジアのサカも使用していたとみられる。中国では遺品は出土しないが,《説文解字》にみられる〈鞬〉がこれに相当するものと思われる。
執筆者:穴沢咊光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報