日本大百科全書(ニッポニカ) 「サラメアの村長」の意味・わかりやすい解説
サラメアの村長
さらめあのそんちょう
El alcalde de Zalamea
スペイン黄金時代の劇作家カルデロン・デ・ラ・バルカの歴史劇。1636年作。森鴎外(おうがい)が1889年(明治22)『調高矣洋絃一曲(しらべはたかきギタルラのひとふし)』と題してドイツ語から翻案したのがわが国への最初の紹介。サラメアという名の寒村へ軍隊が宿営するのがこの劇の発端で、隊長が部下と共謀のうえ、村長クレスポのひとり娘イサベルをかどわかし、山中で乱暴狼藉(ろうぜき)の果てに捨て去るという悪業に及ぶ。事件発覚後も、隊長は貴族の身分と権力をかさに着て村長を鼻であしらい、罪を逃れようとする。万策尽きた村長は、越権行為を承知のうえで隊長を召し捕り、これを絞首刑に処しようとする。隊長の引き渡しを要求する軍隊側と、これを拒否する村人との間であわや乱闘かとみえたとき国王が登場。道理を尽くした村長の弁明に国王は感じ入り、貴族の隊長を平民の村長が裁いた越権行為へのとがめはなく、クレスポが終身村長に任ぜられてめでたく幕となる。貴族の権威を盾に、平民を踏みつけにして平然とうそぶく隊長と、正義の絶対性を確信する村長との葛藤(かっとう)が主題である。
[岩根圀和]
『『調高矣洋絃一曲』(『鴎外全集1』所収・1971・岩波書店)』▽『高橋正武訳『人の世は夢・サラメアの村長』(岩波文庫)』▽『岩根圀和訳註『サラメアの村長』(1982・大学書林)』