日本大百科全書(ニッポニカ) 「シェレ」の意味・わかりやすい解説
シェレ
しぇれ
Jules Chéret
(1836―1932)
フランスの画家、版画家。パリの生まれ。13歳のときから石版工の見習いとして働き、18歳までにいくつかの職場を転々とした。その間、国立デッサン学校でルコック・ド・ボワボードランHorace Lecoq de Boisbaudran(1802―1897)の指導を受ける。1859年から1866年までロンドンに滞在、カラー印刷の新しい技術を習得するとともに、香水商リンメルEugène Rimmel(1820―1887)の知遇を得、リンメルに従ってヨーロッパ、アフリカを旅行した。ベネチアで見たティエポロの影響が、ルーブル美術館でのロココの画家たちからの感化と相まって後の作風に現れる。パリに戻ってからは、イギリス製の印刷機を備えた石版工房を経営し、カラー・リトグラフによるポスター印刷にその才能を遺憾なく発揮し、1000点を超えるポスターを制作。ポスターの中心に位置する人物は揺らめくようにぼかされた背景から大きく浮き立ち、しなやかな動作でいかにも楽しげに微笑を浮かべている。こうしたベル・エポックの典型的な表現によって、大衆の人気を博した。シェレ芸術の展開は、19世紀後半のカラー・リトグラフによるポスターの発展そのものといってよい。ニースで没。
[大森達次]