ルーブル美術館(読み)るーぶるびじゅつかん(英語表記)Musée National du Louvre

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルーブル美術館」の意味・わかりやすい解説

ルーブル美術館
るーぶるびじゅつかん
Musée National du Louvre

フランス、パリのほぼ中心、セーヌ川右岸に位置するルーブル宮殿内にある世界最大級の国立美術館

 コレクションレオナルド・ダ・ビンチの保護者としても有名な16世紀のフランソア1世に始まる。その後歴代の王が蒐集(しゅうしゅう)を続け、とくにルイ14世治世下の財務長官コルベールの積極的な芸術振興政策によってコレクションは飛躍的に拡充した。王室コレクションをルーブル宮殿内で公開するという構想は啓蒙(けいもう)思想の影響のもとにすでに18世紀なかばに準備されていた。しかしそれが実現したのはフランス革命のさなか1793年であり、共和国の「中央美術館」と命名されて開館した。19世紀初頭には、「ナポレオン美術館」と改称され、ナポレオンがイタリアやエジプトなどへの遠征からもちかえったおびただしい戦勝品により、コレクションは一時飛躍的に増大したが、ナポレオン失脚後にその大部分がそれぞれの国に返還された。その後、政府による購入、個人コレクションの寄贈などがあいつぎ、充実したコレクションが形成され、2000年現在、その数は三十数万点を超える。また、来館者数は年間580万人にのぼっている。

 コレクションの内容は、(1)古代オリエント美術・イスラム美術、(2)古代エジプト美術、(3)古代ギリシア・古代エトルリア・古代ローマ美術、(4)彫刻、(5)工芸、(6)絵画、(7)グラフィック・アートの7部門および「ルーブルの歴史と中世の城砦(じょうさい)」から構成される。2004年にアジア、アフリカ、アメリカ、オセアニア美術部門が開設される。それぞれの部門は(1)『グデア像』、(2)『ルーブルの書記座像』、(3)『ミロビーナス』『サモトラキのニケ』、(4)ミケランジェロの『奴隷』、(5)フランス王室の宝飾品、(6)レオナルド・ダ・ビンチの『モナ・リザ』、ルーベンスの『マリ・ド・メディシスの一代記』など、世界的名品を所蔵する。

 1981年、大統領ミッテランは「大ルーブル計画」を発表。15年以上にわたる工事を必要とするこの大改造は20世紀を締めくくる壮大なプロジェクトであり、これによりルーブル宮全体が美術館として生まれ変わった。1989年にはナポレオン広場中央に美術館への入り口として、イオ・ミン・ペイ設計の高さ21メートル、底面辺長33メートルのガラス張りピラミッドが完成した。また地下に残る中世の城砦の巨大な礎石も公開された。さらに開館200年を記念する1993年には、リボリ通り側のリシュリュー翼の旧大蔵省跡が美術館に併合され、常設展示面積が倍増した。1997年にはドノン翼とシュリー翼が再整備されるなど、ルーブルはその運営・展示を改善して近代化された美術館として変貌を遂げている。

 ルーブル美術館は古代から19世紀前半までの厖大(ぼうだい)なコレクションを収蔵するが、19世紀後半から20世紀初頭にかけての芸術作品はセーヌ川対岸のオルセー美術館に引き継がれている。なお、この美術館のあるパリのセーヌ河岸は1991年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。

[吉川節子]

『吉川逸治・堀米庸三編『世界の博物館10 ルーブル博物館』(1978・講談社)』『高階秀爾監修『NHKルーブル美術館』全7巻(1985~86・日本放送出版協会)』『吉川逸治総編集『ルーヴルとパリの美術』全8巻(1985~88・小学館)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルーブル美術館」の意味・わかりやすい解説

ルーブル美術館
ルーブルびじゅつかん
Musée du Louvre

フランス,パリにある国立美術館。正式には Grand Louvreといい,ルーブル宮殿の大部分を占める。フランス・ルネサンスの父と呼ばれたフランソア1世の時代に基礎がおかれ,ルイ13世ルイ14世,宰相ジャン=バティスト・コルベールらによって積極的な収集活動が行なわれた。これらのなかにはイングランド王チャールズ1世のコレクション,イタリア美術の最高の収集品とされたマントバ公のコレクションも含まれている。
フランス革命後,すべての王室コレクションは没収されてルーブル宮殿に移され,1793年に国立美術館として一般に公開された。ナポレオン1世も美術品の収集に関心を示し,征服した国々から多くの名品を戦利品として持ち帰り,そのためにルーブルは一時「ナポレオン美術館」と呼ばれたほどであった。これらの戦利品はナポレオンの失脚と同時に返還されたが,その後も活発な収集活動が続けられ,ロンドンの大英博物館やロシアのサンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館などと比肩する質量ともに世界最大のコレクションを誇っている。
古代文明から 19世紀半ばまでの作品を収蔵し,『ハンムラビ法典』『サモトラケのニケ』『ミロのビーナス』『モナ・リザ』など多くの傑作を含め,その数は 30万点以上に及ぶ。1980~90年代には大規模な増改築が行なわれ,アメリカ合衆国の建築家 I.M.ペイ設計の斬新な入場口「ガラスのピラミッド」が設置されたほか,1993年には開館200年記念事業として財務省が使用していた建物がリシュリュー翼として展示スペースに改築され,ルーブル宮殿全体が美術館として利用されることになった。

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