ジャーエシー(その他表記)Malik Muhammad Jāysī

改訂新版 世界大百科事典 「ジャーエシー」の意味・わかりやすい解説

ジャーエシー
Malik Muhammad Jāysī
生没年:?-1542ころ

16世紀の北インドのスーフィー詩人。自作での叙述によると,ジャーエシーは現在のウッタル・プラデーシュ州ラーエ・バレーリー県のジャーヤスという町の地主の子に生まれ,若いときにチシュティー教団に入り,以来その町で耕作修業をしながら過ごしたという。ジャーエシーは,そのころ民間に流布していた恋愛物語を素材として使い,美しい姫君に恋する英雄が苦難をのりこえてその姫と結ばれるというストーリーのなかで,美姫により神を,それを恋うる英雄により神を求める人を寓意的に示して,神人合一を説いた。主要な作品に,シンハラ国の王女パドマーワティーとチットウル国王ラトナセーンの恋物語《パドマーワティーPadmāvatī》,チャンドラプル国の王女チトラレーカーとカナウジ国の王子プリータム・クンワルの物語《チトラレーカー》などがある。これらは,当時のアワディー方言の話しことばに近い言語により,4行詩と対句組合せを基本とする詩形で書かれている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャーエシー」の意味・わかりやすい解説

ジャーエシー
じゃーえしー
Malik Muhammad Jāysī
(?―1542ころ)

インド、アワディー語のスーフィー詩人。インドでスーフィズム(イスラム教の神秘主義)の教義を大衆に平易に説くために、ヒンディー地域のアワディー語を用いて流行した恋愛物語詩の第一人者主著パドマーワト』(1521ころ)のほか『アクラーワト』Akhrāvat、『アーケリー・カラーム』Ākherī kalāmなどの作品がある。インド伝来の物語を基にして、さらに歴史事実を織り交ぜた『パドマーワト』は大衆にアピールし、スーフィー詩人たちの模範となった。ジャーヤス(現在のウッタル・プラデシュ州の町)に住んだことから一般にジャーエシーと称し、祖先がイランの地主であったことからマリク称号を付している。晩年はアメーティーの王の尊崇を受け、付近の森林に住んだ。

[土井久弥 2018年4月18日]

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世界大百科事典(旧版)内のジャーエシーの言及

【インド文学】より

…これはベンガルの密教文学の底流をヒンディー文学のバクティ文学に伝える懸橋ともなった。イスラムの神秘主義思想家クトゥバンの《ムリガーワティー》(16世紀初め),同じくジャーエシーの《パドマーワット》などは,アウド地方の民間説話を素材にして,彼らの思想を親しみやすい形で説いた恋愛物語である。ビシュヌ神にかかわるバクティ文学には,同神の化身としてラーマをあがめる系譜とクリシュナをビシュヌ神の化身とする系譜とがある。…

※「ジャーエシー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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