日本大百科全書(ニッポニカ) 「スイクチムシ」の意味・わかりやすい解説
スイクチムシ
すいくちむし / 吸口虫
環形動物門吸口虫綱Myzostomidaに属する海産動物の総称。ウミユリ、トリノアシ、クモヒトデなどの棘皮(きょくひ)動物に外部または内部寄生をしている。浅海から深海まで生息するほか、極海付近の寒帯海域から熱帯海域まで分布している。体は直径2~10ミリメートルの薄い円盤状か楕円(だえん)形で、4~5対のいぼ足が体の腹面に縦に並び、その先に剛毛束がある。種類によっては体の周縁に20本内外の触糸をもつものもある。おのおののいぼ足の間には吸盤状の側器官があるが、これは感覚器と考えられている。体の前端腹面に口、後端に総排出腔(こう)が開き、消化管は縦の管から体の周縁に向けて何対も伸びている。血管やえらはない。雌雄同体で、交尾をし、発生の途中ではトロコフォラ形幼生を生じ、変態して成体になる。
スイクチムシ類は、寄生生活をするために非常に特異な形態になり、いぼ足動物という群に入れられたこともあったが、この類は体内に体節的構造がみられること、発生中にトロコフォラ形幼生を生ずること、いぼ足に剛毛があることなどから、環形動物の多毛類と類縁が深いと考えられる。しかし、まだはっきりした分類上の位置は決められていない。
現在までに世界に130種ほどが知られており、日本からは28種が報告されている。サガミスイクチムシProtomyzostomum sagamienseは、長さ20ミリメートルの楕円形で、体色は美しい赤黄色。相模(さがみ)湾の水深540メートルの海底から得られたテヅルモヅルの生殖器内から発見された。またイイジマスイクチムシMyzostomum ijimaeは、直径5~10ミリメートルで暗褐色ないし橙(だいだい)色で、オオウミシダに寄生する。
[今島 実]