血液の輸送路となる閉鎖管をいう。心臓は、この血管を通して血液を循環還流させる駆動ポンプといえる。つまり、血管は、心臓の左心室から、血管のうちで最大の太さをもつ大動脈として出発し、分岐を繰り返しながら、しだいに細くなり、最後には細動脈を経て毛細血管となる。その後、毛細血管は細静脈に移って合流を繰り返し、しだいに太い静脈となり、最後には、上、下大静脈となって右心房に注ぐ。人体内の血管の全長は約10万キロメートルとされ、およそ地球2周半の長さにあたる。
[嶋井和世]
血管の基本的な構造は、3層の膜によって血管壁が構成されているといえる。動脈、静脈のいずれも、内側から内膜、中膜、外膜とよぶ3層から成り立っている。動脈の内膜は、血液に直接接触している内皮細胞の1層の層と、これを覆う弾力線維からなり、中膜は弾力性線維と輪状に配列する平滑筋線維からなっている。外膜は粗な結合組織の層で、膠原(こうげん)線維や弾性線維が混在し、血管の長軸方向に配列している。外膜はそのまま周囲の結合組織に移行し、周囲組織と血管とを結び付けている。動脈の太さによって、この3層の構造の内容は異なるが、大きな血管では、内膜と中膜との境がはっきりしないままに、中膜が血管壁の大部分を占める。とくにヒトの大動脈では、中膜がほとんど弾性線維で占められているため、強い弾力性を示す。上肢や下肢を走る中等大の動脈では、中膜がおもに平滑筋によって構成されるため、血管の径を変化させて血液量を調節することができる。この型は直径0.5ミリメートル以下の細動脈にまで及んでいる。このように、細動脈にも平滑筋は発達しているが、細動脈は数が多いため、血管壁の内面積も大となり、それだけ血流の抵抗も大きいことになる。このため、細動脈では壁の平滑筋の収縮状態によって内径が変化し、そのときどきの血流の摩擦抵抗によって血流を調整することができる。なお、細動脈は正常血圧保持の因子ともなっている。また、平滑筋には血管運動神経が分布しており、筋の緊張状態を変化させている。血管運動神経には、神経線維からノルアドレナリンを分泌して血管を収縮させる神経と、神経線維からアセチルコリンを分泌して血管を拡張させる神経がある。
[嶋井和世]
毛細血管は顕微鏡的レベルの太さのもので、ヒトでは約8マイクロメートル(1マイクロメートルは1000分の1ミリメートル)である。毛細血管の血管壁は内皮細胞1層のみでできているもっとも単純な血管であるが、働きのうえではもっとも重要な血管であり、細胞間の物質の輸送、収集、吸気と細胞との間のガス交換などがこの薄い壁を通して行われている。活動状態の低い組織中の毛細血管は、細く狭くなっていて、平素はほとんど血流がないが、組織の活動が始まると、毛細血管が広がり、血流も開始される。全身や筋の結合組織にみられる毛細血管は、内皮細胞が連続配列して管壁を形成している連続型毛細血管であるが、腎臓(じんぞう)、腸管、内分泌腺(せん)などの組織、つまり、血流と迅速な物質交換を必要とするような組織の毛細血管では、内皮細胞の壁に孔(窓)があり、有窓型または有孔型毛細血管とよばれる。また、肝臓、骨髄や脾臓(ひぞう)などの造血組織内には洞様毛細血管がある。これは管径が著しく広くて(30~40マイクロメートル)、内皮細胞の一部が欠けて細胞間にすきまができたものであり、周囲組織と血管内腔(ないくう)とが通じている。この仕組みは、血液と組織間との巨大分子の物質交換を促進する役を果たしている。毛細血管は細動脈と細静脈との間で豊富な網目を形成していて、この毛細血管網の内表面は膨大な広さとなる。人体ではその内表面積は6000平方メートルに達し、この細胞血管網の血管壁を経て物質交換が行われている。毛細血管直径の総径は大動脈径のほぼ800倍とされている。骨格筋では、1平方ミリメートルに2000本の毛細血管がある。細動脈は毛細血管に移る前に分岐して後(こう)細動脈となり、毛細血管に移行する。この後細動脈には平滑筋が輪状に走り、前毛細血管括約筋とよばれるが、これは毛細血管への血流の調節の役割を果たしている。なお、この括約筋は血流を完全に止めることもできる。腎臓、肝臓、心筋、骨格筋といった新陳代謝の迅速な組織では、毛細血管網も豊富であるが、平滑筋や腱(けん)のような代謝速度の速い組織では、毛細血管網は少ない。毛細血管の血流調節には代謝産物も重要な働きをする。組織活動が旺盛(おうせい)になると二酸化炭素や乳酸が蓄積され、この刺激で血管は拡張され、血流も増加していく。また、毛細血管での物質交換は、濃度差によっても行われる。たとえば、血液中の高濃度の酸素は組織液へ拡散し、組織液中の高濃度の二酸化炭素は血液中に移行するなどである。
[嶋井和世]
静脈は動脈よりも数が多く、一般に径も動脈より大きいため、静脈系の容積は動脈系よりも大となる。静脈壁は、基本的には動脈と同じ3層を構成しているが、層の区別は動脈壁ほどに明瞭(めいりょう)でない場合もある。また、動脈と比べて、平滑筋も弾性線維も少ない。静脈は、その太さによって、便宜上、細静脈(径0.2~1ミリメートル)、小静脈ないしは中等大の静脈(径1~9ミリメートル)、および大静脈に分けられる。静脈では一般に中膜も薄く、平滑筋も少なく、弾性線維は繊細である。外膜は全般によく発達している。静脈はわずかの内圧の増加でもよく伸張するため、血液貯蔵所の役割をも果たしており、全身の循環血液流の60%が静脈血となっている。四肢の中等大の静脈内壁には半月状の弁構造があり、その遊離縁は血流の方向に向いていて、心臓からの逆流を防いでいる。この弁組織は、弾性線維網のある結合組織膜で、平滑筋線維は含まれていない。なお、体の中では細動脈―毛細血管―細静脈の血流路ばかりでなく、細動脈と細静脈とが直接つながることがある。これを動静脈吻合(ふんごう)とよび、交感神経によって収縮する。動静脈吻合は多くの組織に対して血流の調節をする重要な構造であるが、さらに温度調節機能にも関係しており、この仕組みはとくに四肢の皮膚にみられる。また、鼻腔(びくう)粘膜にも動静脈吻合が発達している。動脈によっては、途中に吻合をもたないで、それぞれ限られた領域にのみ吻合血管が分布する場合がある。これを終動脈とよび、心臓、腎臓、大脳などに存在する。終動脈で血行が遮断されると、その分布領域には血液が行かなくなり、組織の変性、壊死(えし)が生じる。
全身の血管は加齢とともに変化するが、もっとも早く変化をおこすのは心臓の冠状動脈で、20歳ころから始まる。一般の血管の変化は40歳ころから始まるとされる。病理学的にみると、中膜が発生上欠損していたり、病変を受けて弱くなると、動脈瘤(りゅう)が形成され、血管破裂の原因となる。動脈硬化は、一般に内膜の肥厚と、細胞間の脂質貯留、弾性線維の破壊などの変化をおこす。
[嶋井和世]
脊椎(せきつい)動物の血管は、心臓から各体部へ血液を運ぶ動脈、各体部中で組織との間で酸素・二酸化炭素・養分などの交換を行う毛細血管、毛細血管からの血液を集めて心臓に戻す静脈に分類される。動脈と静脈は基本的には同じ様式で構築されていて、ヒトの場合と同様に、次の3層からなる。
(1)内膜 最内側に内皮をもち、その外側に弾性繊維とわずかの平滑筋をもつ。
(2)中膜 螺旋(らせん)状あるいは輪状に配列した平滑筋・膠原(こうげん)繊維・弾性繊維からなる。
(3)外膜 中膜とほぼ同じ成分からなるが、弾性繊維が主として縦に配列している。動脈ではこれら3層が明瞭(めいりょう)に認められるが、静脈では中膜が粗であったりあるいは欠くことも多い。また静脈には、内膜のひだが弁を形成して血液の逆流を防止している。一方、毛細血管は内皮のみによって構成される。内皮を構成する内皮細胞は単層扁平(へんぺい)の上皮細胞で、細胞どうしは密着結合・狭間隙(かんげき)結合といった機構によって密に連結されていて、外側に基底膜をもつ。
脊椎動物の血管は発生学的には中胚葉(はいよう)由来の間充織に起源するが、1か所に生じた血管が順次伸張するだけではなく、各所に生じた血管が二次的に互いに連絡して血管系を完成させる。
これに対し無脊椎動物は、脊椎動物に比較しうる血管はもたず、血液は、体腔(たいこう)細胞やときには上皮筋細胞によって囲まれた管の内部を通るか、あるいは開放血管系の動物では体腔中を体液とともに流れる。ただし、少数の動物では内皮細胞をもつ血管も存在する。
[八杉貞雄]
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…酸素は細胞,ひいては1個体が生きていくために不可欠なものであるが,その取入れ方は単に体表面から拡散によって取り入れるものから,呼吸色素を担体とし循環系によってガス交換の場に運ばれるものまで,動物の進化段階に応じてさまざまな方式がとられる。血液は呼吸色素を含む体液で,それを入れる脈管を血管blood vesselという。血管系は,体の外表面を覆う外胚葉と内表面を覆う内胚葉の間に中胚葉組織が発達した後,その中の構造として形成される。…
…この場合,組織液は心臓の収縮と拡張によって,一定の経路を,最初はあたかも潮の満ちひきのごとく行き来していたものが,やがて体制の進化につれ,はじめて一方交通の循環という形をとることになる。 これに対し脊椎動物では,この通液路は,組織間隙を縦横に走る専用の管状器官,すなわち血管とリンパ管をふくむ独立した脈管系によって構成される。したがって,ここでの物質運搬は,もっぱら,この脈管系を流れる血液とリンパの両者によって営まれ,組織液が直接これに関与することはない。…
※「血管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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