化学辞典 第2版 「スペクトル線の幅」の解説
スペクトル線の幅
スペクトルセンノハバ
spectral line width
原子系や分子系の量子状態間の遷移に伴うスペクトル線は,種々の原因による幅をもっている.まず,遷移の前後における状態の寿命が有限であるために生じる幅があり,これは不確定性原理
ΔE・Δt ≧ h
にもとづくものである.すなわち,系の寿命をτとすると,測定されるエネルギーには
ΔE = h/τ
の不確定さが生じ,したがって,スペクトル線の振動数は
Δν = ΔE/h = 1/τ
の幅をもつことになる.そのなかのおもなものは,
(1)自然幅:原子,分子の定常状態が,電磁場との相互作用によって不安定となることによる.
(2)衝突幅:原子,分子の状態が相互の衝突によって乱されることによる.次に,個々の原子や分子の内部的および外部的条件が同一でないために,量子的準位の統計的分布を生じ,それが原因となる幅が存在する.その主要なものは,
(3)ドップラー幅:観測者との相対速度にもとづくドップラー効果が各原子,分子で異なるために,その速度分布に対応した幅が生じる.
(2)と(3)の幅は温度とともに増大する.なお,以上のような本質的な原因にもとづく幅のほかに,実際の観測に際しては,分光器の分解能,そのほかの制約による幅が存在することを考慮しなければならない.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報