量子力学における粒子と波動の二重性を古典論的な立場から理解するため,ウェルナー・カルル・ハイゼンベルクが導いた原理。たとえば一つの電子の位置 x と運動量 p を測定したとき,その不確かさをそれぞれΔx,Δp とすると,ΔxΔp≧h/4π(h はプランク定数)という不確定性関係が成り立つことが示される。ハイゼンベルクとニールス・ボーアは,古典論的な立場からこの原理の意味を理解するため,多くの思考実験を提案した。たとえば,ある時刻における電子の位置と運動量とを正確に測定しようとする場合,位置を正確に測定しようとすれば,できるだけ短い波長の光をあてなければならない。ところが,このような光は電子にあたると電子に運動量を与えて散乱される(→コンプトン効果)。この散乱光をレンズで集めるためには,散乱光がレンズの張る角度内にあることが必要である。この条件から,電子の運動量の範囲が定まるが,その不確定さは光の波長が短いほど大きい。このような思考実験によって,不確定性原理が正しいことがわかる。なお,時間 t とエネルギー E を測定する場合にも,ΔtΔE≧h/4π という不確定性関係が存在する。名古屋大学教授の小沢正直は,2003年に量子論理学の立場から,ハイゼンベルクの不等式の左辺に量子ゆらぎの項を加えた修正,精密化を提唱した。2012年に,ウィーン工科大学原子核研究所の長谷川祐司准教授らによる,中性子のスピン測定の実験により,小沢の不等式が正しいことが検証されたと発表された。