翻訳|spectroscope
もともと光のスペクトルを目で観測するための道具につけられた名称であり,その後も狭い意味でこの解釈は通用している。代表的なものとして図1に示す直視分光器があり,また定性あるいは半定量発光分光分析を目的とした専用可搬型の装置もいくつか市販されてきた。しかし目を検出手段とする方法ではスペクトル領域が可視域に限られその用途は狭い。その後,目に代わる検出系として写真感光材が広く使われるとともに,各種の光電検出器が発達して光と称される広い波長域の各所で高感度の光検出が可能となった。したがって厳密には分光器ということばは死語に近くなっているが,今でも検出器や種々の付属系を含め光スペクトルを観測する装置をすべて分光器と呼んだり,分光測定装置の光学系のみを分光器と呼ぶのが慣例となっている。しかし分光器の元々の定義からすれば分光光学系を指す後者の定義づけが妥当なようである。ちなみに通称分光器といわれているものには次のものがある。
(1)分光写真器spectrograph 分光光学系のスペクトル焦点面上に写真感光材(乾板,フィルムなど)をセットし,目的とする波長域のスペクトル写真を撮る装置。(2)モノクロメーターmonochromator 分光光学系のスペクトル焦点面位置にスリットを置き,目的とする波長の光パワー(スペクトル素分)を随時取り出せるようにした装置で,単色光器ともいう。スペクトル像とスリット間に波長方向に連続相対運動を与え,スペクトル素分を逐次取り出すこともできる。(3)ポリクロメーターpolychromator 上記2者を併合したものと考えてよく,分光写真器のスペクトル焦点面に複数個の出口スリットを設置し,目的スペクトル素分の複数個を同時に取り出しうるようにした装置。(4)分光計spectrometer 回転台にプリズムや回折格子などの分散素子を置き,分散光を望遠鏡で観測することによって波長決定ができる装置(分光計)。(5)分光放射計spectroradiometer 発光体からのスペクトル強度の定量測定を(厳密には放射量を単位として)行うための装置。分光写真器とイメージセンサー,モノクロメーターと単検出器の組合せなどを用い,発光体の分光放射量の絶対値がスペクトルの形で記録しうるものも多く,そのための標準光源を内蔵したものもある。(6)分光光度計spectrophotometer 分光放射計が発光スペクトル強度の定量測定を対象とするのに対し,光の吸収,反射,散乱などに基づくスペクトルを定量測定するための装置である。構成は分光放射計と類似であるが試料照射用の光源を内蔵しており,上記スペクトルの絶対値や相対値が直接出力される。吸収や反射スペクトルを求めるものでは,標準光束と測定光束の2光束を高速で切り換えながら,その強度比を波長走査と連動して算出記録する自記分光光度計が普及している。なお,測定対象にとらわれず,単に二つの光束の分光強度を定量的に比較する装置すべてを総称することもある。(7)干渉分光器interference spectrometer ファブリー=ペロー干渉計やフーリエ分光の原理を用いた分光器であって,分光放射計や分光光度計の型にまとめられたものも多い(干渉分光法)。(8)非分散型分光器non-dispersive spectrometer 色ガラスフィルター,干渉フィルター,ガスフィルターなどを用いたものや,フーリエ分光装置など分散素子を用いない分光器の総称である。
前述したように分光器を各種分光装置の分光光学系と定義したとき,主として分散型分光光学系がその対象となる。この場合プリズムや回折格子などの分散素子を,スリットやレンズ,鏡などの光学素子とどのように組み合わせて明るくかつ収差の少ない光学系を形成させるかが重要であり,マウンティングと呼ばれて多種多様の考案がなされている。それらは考案者の名によって分類されていて十指を超えるが,広く用いられているものをいくつか取り上げる。
(1)リトロー型 図2に示すように1枚の凹面鏡(放物面鏡)をコリメーター鏡とカメラ鏡に用いている。プリズムの場合は往復両路に分散が与えられる。波長走査はプリズム後方の平面鏡(リトロー鏡),あるいは回折格子の回転によってなされる。分光写真器やモノクロメーターに採用される。(2)エバート型 図3のように大きな球面鏡1枚をコリメーター鏡とカメラ鏡に用いている。モノクロメーターや分光写真器に使われるが,とくに後者に対してはスリットと焦点面を上下に配置したファスティー=エバートFastie-Ebert型が優れている。(3)ツェルニー=ターナー型 図4のようにエバート型の1枚の球面鏡を2枚の球面鏡に置き換えたものである。コマ収差が少なく平面回折格子を用いたモノクロメーターには広く採用されている。(4)パッシェン=ルンゲ型 凹面回折格子の場合,図5のように格子凹面の曲率中心を含み刻線に垂直な平面を考えたとき,曲率半径を直径とした格子面に接する円上の1点から出た入射光は回折後同じ円上に焦点を結ぶことがわかっており,この円をローランド円Rowland circleという。凹面格子分光器のマウンティングの多くはローランド円の性質が基本となっている。格子を固定したままで,ローランド円上に入口スリットを置き,回折光を同じくローランド円に沿って置いた写真感光材で受けるか,円上の各所に配置した出口スリットで取り出す方式がパッシェン=ルンゲ型である。分光写真器やポリクロメーターとしてよく採用される。(5)瀬谷=波岡型 凹面格子を用いたモノクロメーターには種々のものがあるが,波長走査を考えたとき入口出口スリット位置を固定し格子を回転するだけのものがもっとも簡単である。図6のようにある条件を満たす位置にスリットと格子を配置して格子を回転させると,ローランド円はスリット位置からはずれるが結像条件はある波長域で十分に満たされるということを利用したものである。紫外域のモノクロメーター用として広く普及している。
光のスペクトルを取得するための装置が分光器であるが,X線スペクトルやマイクロ波スペクトルなど光と呼ばれる領域以外のスペクトルを対象としたものでも分光器と呼ばれることが多い。とくにX線分光器の中でも分散型は構成素子こそ異なれ図7に示すように光の分光器とほぼ類似の構造をもつ。しかし,電子やイオンのスペクトロスコピーにおけるエネルギー分析の道具を電子分光器やイオン分光器と呼ぶには問題があり,分光器と訳すよりスペクトロメーターということばを用いるほうが好ましい。
執筆者:南 茂夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
光のスペクトルを観察・測定する装置。狭義では、電磁波をその波長の違いによって分解し、その強度分布を測定するものであるが、広義には、電磁波だけでなく、電子線などの粒子線のエネルギー分布を調べる分析装置も分光器とよばれている。
吸収スペクトルを測定するための分光光度計は、連続スペクトルを放射する光源、単色装置、吸収試料槽、検知器、計算記録装置で構成されている。また、光波をその波長によって分解する分散素子による分類もある。プリズムを用いたプリズム分光器、回折格子を用いた回折格子分光器、干渉計を用いた干渉分光器、フィルターを用いたフィルター分光器がある。回折格子分光器には、平面格子分光器と凹面回折格子を用いた凹面格子分光器がある。またプリズムと回折格子を複合使用した分光器もあり、小型で高分解が得られる。フィルター分光器では、特定の波長のみを透過する狭帯域フィルターを使用する。
また、使用できる波長領域による分類もある。γ線分光器(ガンマせんぶんこうき)(検出器の出力パルスの高さで分光する)、X線分光器(回折格子として結晶格子を利用する)、真空紫外分光器(光学系が真空槽の中に収納されている)、可視・紫外・近赤外分光器、赤外線分光器などに区別される。
可視分光器には、のぞくだけでスペクトルを観察できる直視分光器、分光素子の回転位置から光の波長が直読できる波長分光計もある。
[尾中龍猛・伊藤雅英]
『日本分光学会編『分光装置Q&A』(2009・講談社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
光を分光してスペクトルを得る装置.三角プリズムを用いたプリズム分光器,回折格子を用いた格子分光器,干渉を利用した干渉分光器に大別される.目盛をつけたものを分光計といい,波長目盛を有するものをとくに波長分光計ということがある.分光器に写真装置を組み合わせた分光写真器を簡単に分光器とよぶことがある.特殊な目的のために,真空分光器がある.これは200 nm 以下の真空紫外領域の研究に用いられる.また,簡便な望遠鏡型の接眼レンズのついた直視分光器がある.これは手持分光器ともいわれ,数個の三角プリズムを組み合わせたもので,ナトリウムのD線が視野の中央にくるようになっている.分散スペクトルを光の入射方向に対して見ることができる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このとき,化学の研究は必ず実験台での実験を伴うものと考えられていた。しかし19世紀末あたりから分光器をはじめとする測定機器が実験に導入され,また化学の一分野として物理化学が確立すると,化学実験の内容も変化し,測定も化学実験の重要な部分となった。また,いわゆる実験を伴わない理論だけの研究も化学研究として認められるようになった。…
…光学系の結像性能を表すもので,その評価法には対象とする光学系によって次のような種類がある。
[分光器の分解能]
近接する2本のスペクトル線を分離して観察できる能力をいい,波長λの近くでδλの波長差を分離できるときの分解能をλ/δλで定義する。これは分散系の性能とレンズの結像性能で決まるが,レンズを無収差としたとき,回折格子分光器では回折次数をm,開口に含まれる格子線の数をNとしてmNで,またファブリ=ペロー干渉分光器では干渉次数をk,フィネスをRとしてkRで,プリズム分光器ではプリズムの底辺の長さをt,プリズム材料の分散をδn/δλ(nはプリズムの屈折率)として,t・(δn/δλ)で与えられる。…
※「分光器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加