日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
スペシャル・トランスポート・サービス
すぺしゃるとらんすぽーとさーびす
special transport service
乗合バスやタクシーなど、通常の公共交通機関を利用することが困難な高齢者や障害者などの移動制約者に対して、個別的な輸送を提供する交通サービス。略称STS。移動・送迎支援サービスともいう。STSには以下の三つの形態がある。(1)ドア・ツー・ドア型 利用者が事前に予約し、自宅などの出発地から目的地まで、福祉車両などを利用して移動するもの。車椅子(くるまいす)のまま乗降可能なリフト付きの車両や、ストレッチャーに横になった状態で乗れる車両のほか、回転シートを備えたタイプの車両も用いられている。地方公共団体からの事業委託や助成などを受けたタクシー業者や、福祉団体が事業主体となって運営されているケースが多い。福祉タクシーや介護タクシーともよばれる。また、妊婦が事前に出産予定日などを登録しておくと、陣痛が始まるなどの緊急時に優先的に配車される「陣痛タクシー」や「マタニティ・タクシー」などとよばれるサービスも登場している。(2)定時定路線型 一般的な乗合バスよりも停留所の設置間隔を短くし、低床バスやリフト付きバスなどのバリアフリー車両を使用するもの。(3)施設巡回型 自治体の施設や病院、デイケア施設などを巡回するもの。定時定路線型の場合と同様のバリアフリー車両を使い、いくつかの路線を組み合わせて乗り換え乗車ができるように運行されている場合が多い。
2000年(平成12)11月に交通バリアフリー法(正式名称「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」、平成12年法律第68号)が施行されたことにより、一般の交通機関や駅施設などのバリアフリー化が進められた。これに伴い、車椅子利用者や歩行困難者、高齢者が自宅と駅などの間を移動するための交通手段を整備する必要性が高まり、STSの運用が広がった。ノーマライゼーションに基づく社会福祉政策が行われているヨーロッパでは、20世紀後半にドア・ツー・ドア型のSTSや、定時定路線型の「サービスルートバス」などが、高齢者や障害者のための交通サービスとして広く普及している。
[編集部]