日本大百科全書(ニッポニカ) 「その前夜」の意味・わかりやすい解説
その前夜
そのぜんや
Накануне/Nakanune
ロシアの作家ツルゲーネフの長編小説。1860年刊。友人同士の2人の青年、彫刻家のシュービンと将来の大学教授ベルセーネフは、ともに金持ちの貴族令嬢エレーナを恋している。彼女も2人に好意をもっている。ある日ベルセーネフが友人インサーロフを連れてくる。インサーロフはロシアの大学に学ぶブルガリア独立運動の志士である。インサーロフを知るに及んで、エレーナは彼を自分の夫に選ぶ。日常的な家庭生活の幸福を捨て、あえていばらの道を選んだのである。ブルガリアへの帰国の途中、インサーロフはイタリアで病死するが、彼女は夫の遺志を継ぎ、亡夫の祖国に赴き、独立運動に身を投じる。エレーナは行動的、情熱的な、きたるべき時代のロシア女性の理想像である。題名は農奴解放(1861)の「前夜」を意味する。
[佐々木彰]
『湯浅芳子訳『その前夜』(岩波文庫)』▽『佐々木彰訳『その前夜』(『世界文学全集38』所収・1975・講談社)』▽『ドブロリューボフ著、金子幸彦訳『その日はいつ来るか?』(『オブローモフ主義とは何か? 他一編』所収・岩波文庫)』