ソボルノスチ(その他表記)sobornost’

改訂新版 世界大百科事典 「ソボルノスチ」の意味・わかりやすい解説

ソボルノスチ
sobornost’

19世紀のホミャコーフベルジャーエフなどロシアの宗教思想家に見られた神学思想をいうが,さらに神学の枠をこえ,西ヨーロッパとロシアを識別するロシア民族性の特質とされた理念をもさす。ロシア語のソボルsobor(集い)から派生したことばである。ホミャコーフによれば,ソボルノスチはギリシア語koinōnia(交わり,共同精神)と同じく,キリストと結ばれた人々のあいだの自由な連合ないし共同体的一体性を意味し,初代教会信者の交わり(《使徒行伝》2-42)にその原型が見られるとした。具体的には,カトリックの絶対的権威主義プロテスタントの過度の個人主義の中間にソボルノスチを位置づけ,特に,俗人と聖職者をはっきり区別するのではなく,むしろ両者を融和させてキリスト教的共同体を運営するという点に力点が置かれた。またホミャコーフは,上記の共同体理念の中核として,法の裁きよりも愛の優越を強調した。もとよりソボルノスチはきわめてあいまいな概念で,論者によって重点の置き方が異なるし,またことばによる説明は不可能だといわれるが,個人が完全な自由と人格を保持しながら,全体の共同体的生活に参画するという点では一致している。

 スラブ派は必ずしも神学上の理念にとらわれず,ソボルノスチをロシア正教に従うロシア民族性の特質と考え,その典型ミール(農村共同体)に見いだされるとした。これはロシア皇帝ピョートル1世以後のロシア近代化政策への批判であり,またロシアの後進性を強調し,そこからの脱却をはかる西欧派の考え方に反対するものであったが,政治理念としては,近代国家の政府の干渉をできるだけ排除するきわめて保守的なものとならざるをえなかった。現代のキリスト教世界では,エキュメニズム(世界教会運動)の流れのなかで,ソボルノスチの精神が再評価されているが,それはカトリックの教皇中心主義とプロテスタントの個人主義に対するアンチテーゼとしてである。しかしこれが新しい教会像を創設するための有力な理念になりうるか否かは問題であろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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