ベルジャーエフ(読み)べるじゃーえふ(英語表記)Николай Александрович Бердяев/Nikolay Aleksandrovich Berdyaev

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベルジャーエフ」の意味・わかりやすい解説

ベルジャーエフ
べるじゃーえふ
Николай Александрович Бердяев/Nikolay Aleksandrovich Berdyaev
(1874―1948)

ロシアの宗教哲学者。キエフ(現、キーウ郊外の軍人貴族の家に生まれる。キエフ(キーウ)大学に学ぶうち、マルクス主義に接し、哲学的な唯物論には批判的であったものの、終末論的メシアニズムの観点から革命運動に参加。1898年大学から追放され、ついで1900年ボログダに流刑される。このころよりマルクス主義とドイツ観念論哲学との統合を目ざして思想的に格闘、しだいに宗教哲学への傾斜を深めていく。

 ドイツのハイデルベルク大学に学んだのち、帰国して1904年ペテルブルグに出る。ここで20世紀初めのロシアが経験した宗教的、文化的ルネサンスの渦に身を投じ、さまざまな思想家と交わった。1907年ふたたび西ヨーロッパを訪れ、帰国後「宗教哲学協会」の設立に参画する。文集道標』(1909)などによって左翼インテリゲンチャの世界観を批判する一方、ロシア正教会の教権主義を激しく攻撃し『創造の意味』(1916)を著した。

 革命後、1922年モスクワ大学の哲学教授に任ぜられたが、思想的に革命政府と折り合わず、「イデオロギー上の理由から」旧ソ連国外へ追放される。その後、一時ベルリンに住んだが、1924年よりパリ近郊のクラマールに居を定め、ここで「哲学宗教ロシア学院」を指導するとともに、雑誌『道』を主宰した。

 人間の主体性、創造性に重きを置く独自のキリスト教的実存主義の哲学を展開。ヒューマニズムなきあと、新たな世界観がまだ確立しない過渡期たる現代を「新しい中世」ととらえた。『歴史の意味』(1923)、『隷属と自由』(1944)、『ロシア思想史』(1948)など、30冊に及ぶ著書はロシア語その他の西欧語で書かれているが、大部分はヨーロッパの各国語に翻訳されており、著者が西洋の思想界でいかに重きをなしたかを瞭然(りょうぜん)とさせる。

[尾崎ヘイワ]

『氷上英広他編『ベルジャーエフ著作集』全8巻(1960~1966・白水社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベルジャーエフ」の意味・わかりやすい解説

ベルジャーエフ
Berdyaev, Nikolai Aleksandrovich

[生]1874.3.6. キエフ
[没]1948.3.23. パリ,クラマール
ロシアの哲学者。最初マルクス主義に興味をもったが,その極端な唯物論には批判的でカントフィヒテなどの観念論によってマルクス主義の補強を考えた。 1899年政治的嫌疑により追放され,のち許されてドイツ各地を旅行。 1914年頃ロシア正教会に入信,17年ロシア革命勃発後モスクワ大学哲学教授。しかしその宗教思想が革命政府の容れるところとならず,22年パリに逃れ,24年その郊外クラマールに「哲学宗教ロシア学院」を創設。以後ソロビヨフ,ドストエフスキーなどの影響下に東方神秘主義の精神に根ざした独自の文化,宗教哲学を展開。主著『歴史の意味』 Der Sinn der Geschichte (1923) ,『現代世界における人間の運命』 Das Schicksal des Menschen in unserer Zeit (35) 。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android