改訂新版 世界大百科事典 「ターディエン」の意味・わかりやすい解説
ターディエン
ta dien
フランス植民地時代のベトナム南部の小作人を指す。〈借田〉の意。19世紀中葉以降暴騰した米の国際価格は,サイゴン条約によりフランス領となったメコン・デルタの米作を急速に発展させた。フランス政庁は1862年以来,土地登記法の整備,運河の開削により膨大な無主可耕地をつくりだし,これをフランス人や富裕なベトナム人に無償で分与(コンセッション)した。このため典型的な大地主制が成立した。地主たちは土地を小作人に貸し付け,収穫量の40~70%にあたる籾を小作料として収奪する一方,水牛・種子・農具等を貸し付けては賃貸料をとった。これらの籾は地主-華僑の集配人を経て,サイゴンのフランス人や華僑の輸出業者の手に集められ,フランス領植民地,日本,中国,インドネシア等の消費市場に運ばれた。1920年代でその額は毎年1億ピアストルに達し,フランス領インドシナ最大の財源をつくった。第2次大戦後,ターディエンは第1次インドシナ戦争中の地主の逃亡を機に自主的に土地解放を行ったが,54年のベトナム共和国の成立とともに再び小作人の地位におとされた。ゴ・ディン・ジェム政権下の数次の土地改革も,地主所有地の有償接収を原則としたため,その負担はほとんど変わらなかった。60年の南ベトナム解放民族戦線の成立も,このターディエン層の不満によるところが大きい。ターディエン制は75年のサイゴン解放により,最終的に消滅した。
執筆者:桜井 由躬雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報